はじめに
社内ベンチャーは、すでに経営されている企業の中に新たに作られるベンチャー企業を指します。
そもそもベンチャーは、先進性あるクリエイティブな独自事業を創出するため立ち上げられる中小企業のことですが、明確な定義はないものの、すでにある企業内で立ち上げられる点はユニークです。
果たしてどのような視点で創出されるのか、実際に実施している企業はどこなのか、ここで詳しく解説します。
【社内ベンチャーって知ってる?】社内ベンチャーとは
社内ベンチャーは、企業内部から新しい製品やサービスを作り出すために独立した組織です。
すでに経営基盤のある企業内に作られるため、「社内起業」などと呼ばれることもあります。
つまり、企業で働く従業員がその企業に属する形で新しい会社を作り、独自に運営していくことになるわけですが、既存企業の中で社内起業する場合には、通常の起業とは異なる特徴が多くあります。
なぜ社内ベンチャーをするのか
そもそもなぜ社内ベンチャーという手法を選択するのでしょうか。
ここには社内ベンチャーを擁する企業側の思惑があります。
狙いはいくつかありますが、まず新規事業で売上を増加させることが挙げられます。
市場の変化がスピーディーになり、多様化する消費者の価値観に対応しなければ企業も利益を上げにくい時代です。
これまでのように安定した既存事業を継続するだけでは将来性が不透明なため、常に新市場で収益源を確保するチャレンジをしなければなりません。
ただそのためには新規事業に専門に取り組む組織が必要となり、これが社内ベンチャーの在り方に非常にマッチするケースがあります。
また、社内に眠っている人/物/金/ノウハウなどのリソースを活用し、利益につなげるためにも社内ベンチャーは合致します。
こうした動きから人材育成や風土変革なども見込めるため、現在前向きに検討する大手企業も増えているのです。
【社内ベンチャーって知ってる?】メリットは何か
社内ベンチャーを実施することには、受け入れる企業側にも、実際にベンチャーを立ち上げる側にも、それぞれのメリットが期待できます。
まず企業側にそうした制度があり、それぞれ思惑が合致しなければうまくいきませんが、トップダウン型にしろボトムアップ型にしろ、いかなる企業も社内ベンチャーがもたらすメリットを享受することは十分に可能です。
ここでは会社側、立ち上げる側、それぞれの目線から見ていきましょう。
企業側のメリット
まず、社内ベンチャー制度を採用し、立ち上げられたベンチャーを擁することになる会社側の目線からメリットを見てみましょう。
社内ベンチャーには2種類あり、トップダウンタイプは経営者や経営者から命じられた組織が主導となるタイプです。
もう一つはボトムアップタイプで、こちらはテーマなどを公募し、従業員が主導となって事業化に取り組むタイプです。
いずれにしても企業側には思惑があり、期待できるメリットがあります。
新規事業の創出で新たな収入源を得ることができる
先ほど少し触れましたが、企業側は新規事業の創出による新市場開拓が期待できることがメリットです。
企業は成長のために常に新しい事業を開拓していくことが使命ですが、安定した従来の事業を継続しつつ、片手間に実施するだけで道が開けるほど簡単なことではありません。
特に現代はあまりに市場の変化が速く、後追いではとても追いつけないスピード感になっています。
まったく新しい未知の領域へ進出する突破口を開けてくれる人材が社内から出てきてくれれば、企業にとってこれほど大きなメリットはありません。
もちろんそれをきっかけとして新たな収入源を得られる期待があります。
企業文化の変革、人材育成ができる
もともとベンチャーなら別ですが、特に大手企業になるとなかなか企業文化を変革することが難しくなっています。
よりポジティブに変革したい、時代に合わせて刷新したいと真に望んでいる経営者は少なくありませんが、それが社内ベンチャーによって実現できる可能性があることがメリットです。
ボトムアップタイプの社内ベンチャーに多いですが、従業員全員、誰もが技術やアイディアを活かして新たなビジネスを生み出せる環境があることは、とても大きなモチベーションになります。
こうした企業文化が浸透すれば人材育成につながりますし、ポジティブなチャレンジ精神を育てることにもなるでしょう。
同時にこうした企業風土に魅力を感じ、外部から良い人材が流入してくる期待もあります。
人手不足の時代に意欲ある人材がどんどん入って来てくれれば、企業としては大きな成果と言えます。
社内ベンチャー立ち上げる側のメリット
社内ベンチャーを実際に立ち上げる側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
企業の従業員として働くことを志望し入社してきた人にとって、そこからまた立場を変えてチャレンジすることにどのような意義があるかは気になるところです。
特にボトムアップで自発的に取り組む場合のメリットに焦点を当てて見てみましょう。
信頼ある企業名を使うことができるため、信頼度が高い
社内ベンチャーはベンチャーでありながら、バックには力強い自分の所属会社があります。
通常のベンチャーでは出資者や後援者、金融機関などのバックアップを得ることになりますが、その一切を所属会社が請け負っている状況ですから、メリットが大きいのは当然でしょう。
何よりも、すでに社会的信用を得ている企業の名前を使えることには大きなメリットがあります。
誰も聞いたことのない社名であっても、それが名の通った企業の社内ベンチャーであると聞けば、おそらく圧倒的なパーセンテージの人から信頼感を得ることができます。
特に日本国内ではこうした傾向が強いため、独立して一からベンチャーを立ち上げるより、ずっと早く社会から認められる期待があるでしょう。
会社から給与をもらいながら新規事業を立ち上げるため、一般的な起業よりも生活が安定する
社内ベンチャーは企業に在籍する従業員が、その企業内部で新しくベンチャーを立ち上げる形になります。
つまり、新規事業が軌道に乗り独立法人になるような流れにならない限り、それまで通り会社から給与をもらいながら業務にあたることが可能です。
一般的なベンチャーは資金集めから始まりますし、軌道に乗るまではほぼすべての資金が自己資金からの持ち出しです。
明日の収入も不安定な状況に比べれば、社内ベンチャーは生活も保障され、安心して事業開拓にあたれる点が大きなメリットです。
企業に就職したけれどゆくゆくは独立したい、ただ資金面では少しも冒険はしたくないという人にとっては、まさに社内ベンチャーはうってつけの制度です。
【社内ベンチャーって知ってる?】デメリットは何か
社内ベンチャーにはたくさんのメリットがあることは間違いありません。
ただ、メリットと裏腹にデメリットが存在することも事実です。
もちろんこれらのデメリットがすべて該当するというわけではありませんし、一切を回避して理想的な運用ができている企業もあります。
ただ取り組む前に、企業側も立ち上げる側も、起こり得る課題については頭に入れておいたほうが良いでしょう。
それぞれの目線でまとめます。
企業側のデメリット
まず企業側が社内ベンチャー制度を採用する際に、想定しておくべきデメリットや課題についてまとめておきましょう。
リスクを知ったうえであらかじめ対処しておけば、こうした課題も回避しながら理想的な運用は十分可能です。
何よりも業種業態、企業風土など自社のタイプをよく理解したうえで実施することが大切です。
意思決定の柔軟性が少ないことから事業としての成功率が低い
社内ベンチャーという形を取るのは、現存する企業体とは別の組織として稼働させたいからです。
別組織なのですから自由度が必要ですし、決済についても独立した権限が必須です。
ところが事業を実現するまでの過程で組織の意思決定の柔軟性を欠くことで、思わしくない結果を招いてしまうケースが少なくありません。
成功率が決して高くないことがデメリットです。
ベンチャーには短期間で成功を目指すという特徴があり、それが最大の魅力でもあります。
社内といってもその点はまったく変わりませんので、スピード感を妨げるような仕組みはあってはいけません。
特に大企業はささいな決済一つでも意思決定に時間がかかってしまい、せっかくの社内ベンチャーもスピード感のない組織体になってしまいがちです。
この点は特に意識して、柔軟性を欠くような組織にならないよう、あらかじめ対策を採る必要があるでしょう。
失敗したときに全社としてのリスクが大きい
社内ベンチャーを支援するのは現存企業です。
もちろん眠っている企業資産を活かして利益を生むための社内ベンチャーですが、そのリソースも無尽蔵にあるわけではありません。
つぎ込んだ分だけリターンが得られなければなりませんが、十分得られないまま社内ベンチャーを閉じることになるケースが少なくありません。
このような失敗があった際に、全社的に被害を受けるリスクがあることが企業側のデメリットです。
社内ベンチャーが100%子会社であれば、万が一倒産したときに親会社の損失も多大です。
もちろん倒産が前提ではありませんが、リスクヘッジもしっかり行ったうえで実施すべき制度であることは間違いありません。
運営側のデメリット
それでは社内ベンチャーを運営する側にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
一見、従業員としての立場は守りながら落ち着いて新規事業開拓にあたれるようにも見えますが、そこにはしっかり意識しておくべきポイントがあります。
もちろん必ずしもすべてが該当するわけではありませんが、考えられるデメリットを見てみましょう。
短期間での成果が期待される
一概にデメリットとも言えませんが、社内ベンチャーは出資者側から常に満足のいく成果を求められ続ける立場です。
これは一般的なベンチャーでも同じことですが、会社がまるまる出資企業の内部に存在しているわけですから、日常的にそのプレッシャーは強いと言わざるを得ません。
早期の成果を期待され、タイトなスケジュールを要求されますが、人/物/金といったリソースも好きなだけ使えるわけではありません。
もちろんそれだけ期待されていることはモチベーションにもつながりますが、ストレスを感じる環境になりやすいことはデメリットと言えます。
特にトップダウンタイプの場合は経営者からの期待が大きく、よりプレッシャーを感じる可能性は高いです。
本気度が不足する危険性がある
先ほどメリットとして挙げましたが、従業員としての立場が守られたうえで事業開拓にあたれることが、逆振れする場合があります。
一般的なベンチャーなら個人資金を投資し、1日1日の生活にもリスクを伴いながら事業にあたることになりますが、社内ベンチャーにはそうしたリスクはありません。
このことが熱量不足につながると、本気度やモチベーションの低下につながり、成果を出せない組織になってします場合があります。
必ずしもそうなるというわけではありませんが、メンバーに1人でもそうした兆候が発生すると、業務に対する組織の姿勢が徐々に変わっていってしまう懸念があるでしょう。
常に全員が意欲を持って、新しいことにチャレンジする意識を持ち続ける工夫が必要です。
【社内ベンチャーって知ってる?】取り組んでいる企業
それでは社内ベンチャーに取り組んで成果を収めている企業を紹介しましょう。
いずれも名の通った大手企業ですが、実に巧みに制度を採り入れ、新市場開拓に成功しています。
社内ベンチャー成功にはいくつかポイントがあると言われますが、実際に実践している事例を見て学ぶのが一番の近道です。
ここでは社内ベンチャーに取り組んでいる数ある企業の中でも、特に評価の高い3つの企業に焦点を当てて紹介します。
三菱商事
三菱商事と聞けば誰もが知る大手企業ですが、その中から派生した社内ベンチャーが株式会社スマイルズです。
2000年に三菱商事のコーポレートベンチャー0号として設立したのがスマイルズで、有名なスープ専門店「Soup Stock Tokyo」を主軸とし、大成功を収めました。
立ち上げたのは遠山正道氏ですが、当時出向していた日本ケンタッキーフライドチキンの新規事業担当経験から、Soup Stock Tokyoを創出されました。
首都圏をメインに約60店舗展開する大成功を収め、現在は雑貨店の経営など多岐にわたる新規事業展開をしています。
もちろん三菱商事は現在も多くの社内ベンチャーを推進しています。
リクルートホールディングス
リクルートホールディングスが新規事業提案制度という社内ベンチャーを開始したのは、1983年とかなり早い段階でした。
実際に事業化され成功を収めたものには「ゼクシイ」や「HOT PEPPER」などがあり、すでに誰もが知る社会的地位を得るブランドに成長しています。
リクルートホールディングスでは、いい企画は常に社内起業を行える仕組みになっており、グループ各社の課題からテーマを決めてアイディアを募集するのです。
また応募者は社内外問わず横断的にメンバーを集めてチーム作りが可能であり、企画は書類審査や面接を経て可否が決定されています。
評価は賞という形式になり、事業化チャンスとともに賞金を得られる仕組みもユニークです。
サイバーエージェント
サイバーエージェントは経営陣から多くの新規事業提案があり、新規事業に参画する仕組みになっています。
トップダウンタイプとも言えますが、従業員約10名からなる「NABRA」という選抜メンバーが新規事業創出を担当し、そこで出されたアイディアは役員会ではなく投資委員会にかけられることになります。
決議されれば即事業化となり、すでに同社内には数十社を数える社内ベンチャーが存在するという、非常に活発な社内ベンチャー活動が行われている企業です。
成果としては、登録者数1,400万人を超えるCygamesのオンラインゲーム「グランブルーファンタジー」などが代表格です。
【社内ベンチャーって知ってる?】まとめ
社内ベンチャーは、近年国内の多くの企業が注目し、力を入れつつある分野です。
ゆくゆくは独立したい、ぜひ社内起業をしたいという就活生は、こうした取り組みに積極的な企業を狙うのも一つの選択でしょう。
それにはまず自分がしたいことは何か、その会社でできることは何かをしっかり考え、実現できる会社を選ぶことが大切です。
働き方が変わっていく中、多様性のある活躍を目指すなら、社内ベンチャーはおすすめできる制度と言えます。