はじめに
近い将来、起業を目指している方にとって、経営を学ぶためにベンチャー企業に就職したいという方は少なくありません。
一方、すでに企画を立てている方や具体的な事業計画を作成している方、お試し的に学生起業をしてみたという方は、新卒で本格的に起業するか迷っている方もいることでしょう。
将来的に起業の目標や夢を持っている方は、就活を迎えて、どのような選択をすべきなのでしょうか。
新卒での就職と起業との関係、新卒で起業することのメリットとデメリットをはじめ、ベンチャー企業に就職してから起業するメリット、デメリットについてご紹介していきます。
起業志望の方が新卒で起業するか、ベンチャー企業に就職してから起業するか検討する際の参考にしてください。
【起業志望の就活とは?】起業とは
起業とは自らが経営者となって、事業を起ち上げ、事業を経営していくことを指します。
株式会社などの法人設立をはじめ、まずは個人事業主として事務所を起ち上げることやSOHOビジネスを始めることも起業の一つです。
かつては株式会社を設立するには、資本金が1,000万円必要という法律上のルールがあったため、卒業してすぐに学生が法人設立をするのは、資金力の面でハードルが高くなっていました。
ですが、現在は最低資本金制度が撤廃され、1円起業も可能となり、学生時代から起業する人も増えています。
起業はどのような業界や業種で行うかによって、当初から1人で始められるビジネスもあれば、従業員の雇用が必要など、準備すべきものやマネジメント法が異なっていきます。
新卒での就職と起業との関係
近年は学生起業をし成功する人も出てきましたが、日本における一般的なキャリア形成といえば、就職活動を経て新卒採用で、企業に雇用されてファーストキャリアを踏み出す方がほとんどです。
一部、家業を継ぐという方もいますが、それでも、卒業してすぐに経営者や役職に就くのではなく、一般社員として入社し、経験を積んでから、任されると判断されたタイミングで親などと世代交代をするのが基本的な流れです。
そのため、大学卒業とともに起業して、自らが経営者となって経営を進めていく方は極少人数であり、稀なケースと言えます。
学生時代の起業は大学生という肩書きも残りますが、卒業してからは、失敗すれば何も残らないという責任の重さを自覚しなくてはなりません。
新卒の起業者は1割に満たない
先述のように、学生のうちにビジネスを始めてそれ相応の成功を収めていれば、卒業してそのまま事業を継続するケースもあるでしょう。
しかしながら、そのような例はごくわずかであり、実際のところ新卒で起業する割合は、全体の1割にも満たないのです。
会社を興して自らのアイデアを実現させたいという想いは、もしかしたら誰しも一度は抱いたことがあるものかもしれません。
それでも現実にその夢を叶えているのはほんの一握りで、たとえその道を選んだとしても、順風満帆に進むとも限りません。
ましてや学生時代に何か成果を残しているわけでもなく、実績もないのに新卒と同時に何か始めようとしているなら、その方向性が正しいかどうか、冷静になって考えるべきでしょう。
起業する人は減少傾向にある
もちろん、大きな夢を追いかけることそのものは悪いことではないものの、相当なリスクがあることを覚悟しなければならないでしょう。
それを裏付けるかのようなデータとして、起業する人数そのものは減少傾向にあります。
そもそも、医者などの師業や弁護士などの士業と違い資格がなくても、誰でもチャレンジできる機会があるのにもかかわらず、増加に転じないのはどうしてでしょうか。
それは、日本では新卒を一括して採用するという流れが定着していることと、大いに関係しているのかもしれません。
さらに近年では薄れつつあるものの、定年までずっと同じ会社で働き続ける終身雇用が根強く残り「大学を卒業すれば一般企業に就職するのが当たり前」という背景も考えられるでしょう。
【起業志望の就活とは?】ファーストキャリアとしての起業の魅力
では、ファーストキャリアとして新卒採用で企業に雇用されて働くのではなく、自ら事業を起ち上げて起業する魅力はどんな点でしょうか。
さまざまな魅力が考えられますが、代表的なものを2つ挙げるとすれば、「経験がもたらす価値」と、「仕事における積極性や挑戦が身につく」ことです。
「経験がもたらす価値」は起業すればすぐに得られるものではありません。
事業を継続して成功させることをはじめ、失敗して挫折した経験も当てはまります。
「仕事における積極性や挑戦が身につく」ことは、事業継続や成功のための原動力となるとともに、万が一、最初の起業で失敗しても、もう一度、会社を起ち上げる、転職して働く場合でも役立つ力です。
経験がもたらす価値
「経験がもたらす価値」は起業してすぐに得られるメリットではなく、事業を行っていく中で積みあがっていく価値です。
経営者目線はもちろんのこと、商品やサービスを展開して売上を上げていくためにどうすれば良いかを考える機会も多いため、ユーザー目線の視野も広がります。
さらに、従業員を雇用することやマネジメントしていく中では、従業員の立場に立って考えることも必要です。
もちろん、経営者目線の中には経済状況を判断する、将来の見通しを考える、リスクをマネジメントするなど、さまざまな視点が必要になります。
経験を積むほどに、さまざまな形で視野を拡大でき、その後に役立つ力や想定外の事態が起こった際にも対処できる力が身につきます。
仕事における積極性や挑戦が身につく
社会人経験や本格的なビジネス経験なく、新卒で起業することは、社会に出てから起業するより大変なことは多いはずです。
若さを武器にすることもできる一方、若さや経験の未熟さを補いながら、取引先や顧客にアプローチしていかなくてはなりません。
起業当初は経営者1人だけや、1人~2名ほどのアシスタント的なスタッフしかいない場合も多く、自分がたじろいでいる場合や迷っていては会社が回っていきません。
そのため、経験を重ねていくうえで、仕事における積極性やチャレンジ精神がどんどん磨かれていきます。
仕事における積極性や挑戦を重ねていくうえで、起業家にしかない人的ネットワークを構築できるのも、魅力の一つです。
何かあったときに助けてもらえる場合や新たなビジネスチャンスが生み出されることがあるからです。
【起業志望の就活とは?】新卒で起業するデメリット
では、新卒で起業するデメリットはどんな点でしょうか。
たとえば、融資を得たくても信用がなく資金調達が難しい、人材を得たくても信頼がなく採用できない、ビジネス経験がなく失敗する可能性が高いなどが挙げられます。
新卒起業のデメリットはさまざま考えられますが、ここでは就活との関係を含めてデメリットをご紹介します。
それは、「新卒カードがなくなる」、「すぐに退社してしまうのではないかと思わせてしまう」ことです。
新卒カードがなくなる
新卒起業のデメリットの一つに、ビジネス経験がなく失敗する可能性が高い点を挙げました。
失敗して会社を倒産させてしまった場合や自らの意思で断念する場合、そこまでに得たチャレンジ精神で起ち上げ直すという方法もありますが、一度、就職して修行を積んでから改めて起業を目指す方もいれば、起業はあきらめて就職して頑張ることにする方も出てくるはずです。
いわゆる、第二新卒としての就活や転職活動をするわけですが、新卒で就活をして入社できる企業と、第二新卒として入社できる企業は明らかに異なるのが現実です。
新卒でなければ入社できない企業がたくさんあり、一度、起業してからの就職では、志望する企業に入れないケースも少なくありません。
すぐに退社してしまうのではないかと思わせてしまう
一度起業してからの就活や転職活動では、就職できる企業の幅が狭まるうえ、企業側からも、「数年したら自分で事業を起こして退社するのではないか」とイメージを持たれます。
採用されない方向に傾く可能性が高いため、すぐに辞めるかもというイメージをいかに払拭して、採用してもらうかは至難の業です。
履歴書や職務経歴書には、自ら起業した経歴を掲載しますし、起業して培った経験をアピールして採用されようと頑張る方は多いです。
志望動機を伝える際や自己PRをする際に、なぜ経営を断念したのか、起業を辞めて、その企業で仕事をしたいと思ったのはなぜかを、しっかり説明しなくてはなりません。
企業側から持たれるマイナスイメージを払拭しなければならないのが、デメリットです。
【起業志望の就活とは?】ベンチャー企業に就職してから起業するメリット
学生からいきなり経営者になるのは厳しい、デメリットを考えると、まずは社会人経験やビジネスの現場を知ることが必要と考える方もいることでしょう。
新卒として社会人経験を積むのはもちろんですが、起業するなら経営者的な視点やマネジメント能力の育成も不可欠です。
その能力や経験が得やすいのがベンチャー企業です。
そこで、ベンチャー企業にいったん就職してから起業するメリットについて考えてみましょう。
ベンチャー企業での経験を経て起業するメリットも多数ありますが、ここでは「経験値を高めることができる」、「人脈を広げることができる」ということについて詳しくご紹介します。
経験値を高めることができる
起業したい方が新卒で就職する場所として、有名な大手企業や技術力などが高く日本経済を下支えしている中小企業ではなく、ベンチャー企業が選ばれるのは、そもそもなぜでしょうか。
学生起業や新卒起業をはじめ、若くして起業する人はベンチャービジネスを起ち上げるケースが多く、勉強になることが多い点が一つです。
もう1つは、経営者との距離が近く、経営マネジメントや起業のやり方などを学べる点です。
大手企業では経営層と新卒が顔を合わせることや一緒に仕事をする機会はほぼありません。
中小企業は独自の商慣習などが残るなど、ベンチャー起業向けではないことがあります。
ベンチャー企業は少数精鋭で新規ビジネスに取り組んでいるので、リソースが充実しており、幅広いビジネス経験を積むことができ、マネジメント能力も養えます。
人脈を広げることができる
ベンチャー企業は規模がまだ小さく、社員数も少ないなど、人との接点や交流も少ないように思えるかもしれません。
ですが、新しいビジネスを広めるべく、成長戦略を掲げているので、さまざまな人との接触を試みているのもベンチャー企業の特徴です。
新しいビジネスに興味を持ってアプローチしてくるほかのベンチャー企業の経営者や大手企業の担当者などと商談する機会があることや共同事業を行っていくことも少なくありません。
特にBtoB向けのビジネスを展開するベンチャー企業なら、企業関係者との関係を構築することができます。
人脈を広げておくことは、将来起業する際にビジネスチャンスを生み出すなど、メリットをもたらしてくれます。
【起業志望の就活とは?】新卒で起業する注意点
必ずしもデメリットばかりではなく、ほかの道では得られないメリットも十分にあることを知ったうえで、ここから先は起業する前にやっておくべきこと、欠かせない準備などについて確認していきましょう。
すでに事業をスタートしている学生であれば、どれも当たり前のことばかりで「今さら」だと感じることもあるでしょう。
それでも、これから始めようとしている学生と共にあらためてチェックをすることで、新卒でいきなり経営者となるにあたり、足りないものが見つかるかもしれません。
自己資金を用意しておく
まず起業するにあたり、自己資金といわれる、自分が自由に扱える現金を用意しておかなければなりません。
もちろんそれは、現金でも預金でもかまいせんが、それがなければその先の準備はまったく進みません。
たとえば、経営のために必要となる資金を外部から集めようとする際、一銭もない状態では信頼されず、門前払いを食らってしまいます。
どこで調達するかにもよりますが、金融機関や行政機関の融資制度を利用するにしても、自己資金の有無は必要な条件の1つです。
そうした事業に大きく関わってくるお金のほかにも、個人として生活が困窮してしまわないように、当面の間、暮らしに困らないくらいの手持ちをきちんと用意しておきましょう。
企業方針を決める
将来に向けたビジョンをしっかり定めたうえで、それに向かってどのように行動するかを誰にでもわかりやすく考えなければなりません。
いわゆるスローガンのようなキャッチーにまとめたものではなくても、どういうことをしようとしている会社なのかを明確にしておきましょう。
それがはっきりしなければ、上述のような外部から資金を調達しようにも信用を得られず、融資が受けられないという事態に陥りかねません。
両親からお金を借りようとしていたとしても、何をするのか目的がわからなければ貸してもらえないのと同じです。
また、将来いつか従業員を雇おうとする際にも、経営方針がわかりやすくまとまっていて理念を明確に掲げているほうが、優秀な人材が集まってくるに違いありません。
事務知識を知っておく
事業内容がどのようなものであったとしても、経理に関わる事務作業は少なからず発生します。
会計ソフトなどを利用すれば、作業の負担を軽減させられるものの、いずれにしても税金についての基本的な知識は欠かせません。
特に開業当初は資金が潤沢ではなく、専門家に相談できず、自分で判断することも多くなるでしょう。
そうした状況の中で、会計や財務などの知識がなければ、本業以外のことに関して悩んでばかりになってしまいます。
たとえば、ビジネスとプライベートでスマホを兼用する場合、どこまで経費となるのかなどしっかり把握しておきましょう。
さらに払わなければならない税金の種類などを事前に理解しておけば、申告が漏れたり、あとで慌てたりすることもありません。
新卒で起業したいなら長期インターン参加がおすすめ!
卒業してから一般企業に就職せず、起業することをすでに決意しているとしても、ほかの就活生と同じように長期インターンへ参加してみると良いでしょう。
なぜならば、実際にビジネスの現場を自分の目で確かめられ、緊張感をもって働く社員や、職場の雰囲気に触れられる機会はめったに訪れないからです。
そうした経験を通じて得られるものは、起業するために必要なスキルばかりではないはずです。
あらためて起業方針を見つめ直すきっかけがつかめるかもしれません。
まとめ
起業志望の方は就活するか、大卒ですぐ起業するか迷っている方もいるかもしれません。
ファーストキャリアとしての起業の代表的な魅力は、「経験がもたらす価値」が得られ、「仕事における積極性や挑戦が身につく」ことです。
一方、新卒で起業し、挫折した場合のデメリットとして、「新卒カードがなくなる」、「すぐに退社してしまうのではないかと思わせてしまう」と再就職が厳しい点が挙げられます。
ベンチャー企業に就職してから起業する場合、「経験値を高めることができる」、「人脈を広げることができる」など、将来の起業に有利に働きます。
迷っているなら、まずは就職して経験を積んでから、起業を目指しましょう。