はじめに
近年、社会貢献や社会課題の解決に取り組む企業への就職を希望する学生が増えています。
そのなかでも、市場として急成長しているのが、「フェムテック」です
女性の健康と活躍の後押しをするこのフェムテックは、持続可能な開発目標(SDGs)やジェンダー平等といった価値観に強く共感する若い世代にとって、魅力あふれる業界でもあります。
そこで今回は、注目のフェムテックの基礎知識・メリット・デメリットから、主な商品や国内のベンチャー企業まで、くわしく解説します。
フェムテックとは
フェムテック(Femtech)とは、女性(Female)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。
具体的には、女性特有の心身の健康問題を解決するために、テクノロジーを利用して開発された商品・サービスを指します。
フェムテックという言葉が日本で注目され始めたのは、2021年の新語・流行語大賞にノミネートされたときのことでした。
フェムテックが扱う主な問題は、生理の貧困・働く女性の出産や更年期障害など、あらゆる女性の悩みです。
社会の動向と呼応するように2021年には政府がフェムテックの推進を決定し、経済産業省では実証事業費補助金の採択も行われています。
市場規模
フェムテックという言葉が誕生したのは、2013年頃のドイツです。
日本での市場としては、2016年頃のフェミニズムの広がりとともに確立されたといわれています。
比較的新しい市場ではありますが、フェムテックの顧客は世界の人口の約半数を占める女性であり、その成長傾向には大きな可能性を秘めているといえるでしょう。
世界的なフェムテック企業への投資額は、2016年から2019年までの3年間で、およそ2.8倍と急拡大を遂げました。
また、世界のフェムテック市場予測としては、2019年には820億円規模だったものが、2025年には5兆5,000億円に達するとの調査もあります。
実際に日本でも、大手衣料品メーカーが吸水型サニタリーショーツを全国発売するなど、フェムテック市場の動きは活発化しています。
今後はさらにさまざまなフェムテックが市場を拡大し、誰にでも手に取りやすい身近なものになるかもしれません。
注目される背景
フェムテックが大きな注目を浴びる背景としては、欧米などの先進国で高まった性差医療や性差ヘルスケアの需要によるものだとされています。
女性の社会進出やキャリアアップが望まれていても、月経や月経前症候群(PMS)による影響で、仕事と健康の両立は難しいのが現実です。
また、不妊治療と仕事の両立も難しく、離職や短時間労働へのシフトなども、女性のキャリアアップの大きな問題点となっています。
さらに、キャリアを積み重ねた女性が直面する更年期障害の問題も、フェムテックが必要とされる土壌の1つといえるでしょう。
こうした女性と社会からの要望に加えて、テクノロジー側の急速な発展、さらには「×テック」という形での新たな分野へのテクノロジー進出の結果が、フェムテックの注目の背景にはあるのです。
フェムテックのメリット
フェムテックが浸透すると、さまざまな形で社会全体に大きなメリットがもたらされます。
フェムテックを利用する女性一人ひとりがそれぞれの心身の健康に大きな恩恵を受けるのはもちろん、日常生活をともにする男性パートナーや長期的に雇用する勤務先企業なども、間接的にメリットを感じられるでしょう。
ここからは、「女性が社会で活躍しやすくなる」「女性の諸課題に対して社会的認知度が上昇する」というフェムテックの2種類のメリットについて、それぞれくわしく解説します。
女性が社会で活躍しやすくなる
フェムテックには、女性が社会で活躍しやすくなるというメリットがあります。
全般的に、現代では、男性でも女性でもその意欲に応じて活躍できる社会が整備されつつあるといえるでしょう。
しかし、女性の場合には女性ならではの心身の悩みや避けられないライフイベントによって、その意欲や希望について断念せざるを得ないケースがあります。
例をあげるならば、月経前症候群(PMS)がもたらす心身の不調によって、仕事のパフォーマンスが低下し、症状が重い場合は休暇を取らなければならないケースもあるでしょう。
そのほかにも、妊娠・出産・更年期障害といったものも、女性の活躍をストップさせてしまう要因です。
こうした悩みやライフイベントをフェムテックで解決できれば、より良い働き方が実現します。
意欲や希望をもった女性の支えとなってくれるのが、フェムテックの大きなメリットです。
女性の諸課題に対して社会的認知度が上昇
フェムテックには、直接的に女性の助けになるだけではなく、女性の諸課題を社会の中で表面化させるというメリットもあります。
生理や出産などの性に関する問題は、これまで社会の中でタブー視されてきました。
そのため、月経前症候群の辛さや不妊治療と仕事の両立の難しさなどは、社会の目から隠されてきたともいえます。
しかし、そうした女性の悩みに応えるフェムテックが登場すると、その問題に対する社会の認知度が上がり、より手厚くフォローしようという動きが社会全体で活発化しました。
それまでは女性特有の悩みの存在に気づかなかった男性も、フェムテックの存在を通して女性の健康や課題に向き合う機会を得ています。
フェムテックによって、男女間や世代間の認識のギャップが減り、女性を労わる社会が実現しつつあるともいえるでしょう。
フェムテックのデメリット
さまざまなメリットのあるフェムテックですが、実際に使用する上でいくつかのデメリットや弱点があります。
女性特有の健康の悩みに応えるためのフェムテックですが、「医療」とは認められないものがほとんどです。
フェムテック商品を開発する企業の中には、医師の監修や研究機関との共同開発を行うところも珍しくありません。
しかし、医療機関や公的機関の認可や保険が適用されたものは、ほとんどないのが現状です。
ここからは、「医療機関の認可を受けていない商品が多い」「保険がきかない」といったデメリットについて、くわしく見てみましょう。
医療機関の認可を受けていない商品が多い
フェムテックの中でも、医療支援を目的として作られた商品は、医療機器としての認可を受けているものもあります。
しかし、医療機関ではない一般の企業の手で作られた商品が多く、その安全性や信頼性をどう担保するのかというのが大きな課題です。
医療機器として認可されるには、実証データの積み重ねなどが不可欠で、それによって有効性・安全性・信頼性が法律で担保されます。
一方の認可外の商品は、開発から発売までが短期間で行える点にビジネスとしてのメリットはありますが、その品質に疑問をもたれやすいのがデメリットでしょう。
医療機器レベルの安全性や信頼性を兼ね備えた商品であっても、認可に要する期間の長さを懸念して、あえて認可を受けていないものもあります。
このように、商品としての利益の最大化と、医療に求められる安全と信頼の間でバランスを取らなければならないのが、フェムテックの弱点といえるでしょう。
保険がきかない
もう1点、フェムテックのデメリットとなるのが、保険がきかないという点です。
まず、保険がきかないと全額を負担しなくてはならないため、商品の価格が高額になります。
高額な商品だと、効果や信頼性が高くても、広く消費者に受け入れられにくくなるでしょう。
海外では、骨盤底筋を鍛える商品が保険適用対象になっているケースもありますが、日本のフェムテックの多くは保険適用外のため、高値で販売されることがほとんどです。
また、保険の適用外で高価格のフェムテックを利用するよりも、病院で診療を受けたほうが安上がりになるケースもあります。
日本は海外よりも保険制度が整備されているため、病院がフェムテックのライバルとなり、なかなか浸透しにくいのがデメリットといえるでしょう。
フェムテックの7つの分野
フェムテックには、その目的ごとに7つの分野があります。
・月経
・不妊、妊活
・ウェルネス(女性特有の疾患)
・セクシャルウェルネス
・メンタルヘルス
・妊娠、産後
・更年期
「月経分野」は月経困難症や月経前症候群など、月経に関連した症状を扱っており、主な商品としては、月経周期管理アプリケーション・低用量ピルのオンライン処方サービス・吸水ショーツ・月経カップなどがあります。
「妊娠・不妊分野」の主な商品としては、妊活コンシェルジュサービス・精子や卵巣年齢のセルフチェックキットなどがあります。
「産後ケア分野」の主な商品としては、オンラインでの医療相談サービス・スマートフォン連動の搾乳機などがあげられるでしょう。
「更年期分野」は閉経前後の10年間にスポットを当てた分野です。
主な商品には、遠隔医療相談サービス・カップルのコミュニケーションサポートサービス・サプリメントといったものがあります。
「ウェルネス分野」では乳がんや子宮頸がんなどの女性特有の疾患を扱っています。
主な商品として、傷みの少ない医療機器などがあげられるでしょう。
女性の性に着目した「セクシャルウェルネス分野」の主な商品には、デリケートゾーンケア・プレジャーアイテム・性交痛緩和グッズなどがあります。
「メンタルヘルスケア分野」女性が直面する精神的な負担をやわらげることに着目した分野です。
主な商品として、産後うつを早期発見するアプリ・陣痛をやわらげるVRセラピーなどがあります。
フェムテックの主な商品
7分野からなるフェムテックの市場には、さまざまな商品やサービスがあります。
どの商品やサービスも、それぞれに利便性や使い心地に配慮され、日常的に女性やカップルが取り入れやすくなっているのです。
安価で購入しやすいものや、自宅でサービスを受けられるもの、手厚いアフターフォローがあるものなど、その内容もバラエティーに富んでいます。
ここからは、特に注目を集めている「スマルナ」「ケーゲルベル」「エフチェック」について、その内容をくわしく見てみましょう。
スマルナ
スマルナとは、自宅からスマートフォンのアプリを利用して、ピルの相談・診療・処方といった一連のプロセスが完了するサービスです。
すでに50万人以上の利用実績があり、さまざまな年齢・症状を抱えている方々からの月経や避妊の悩みに応えています。
処方サービスが対応するのは、避妊・生理痛・月経前症候群(PMS)のための低用量ピル、生理日を調整するための中用量ピル、緊急避妊のためのアフターピルです。
スマルナでは、医師の問診や診察のあとで、状況に応じたピルを提案・処方してくれます。
最短で翌日にはポストに届くため、通院を控えたいコロナ禍にもマッチしているサービスだといえるでしょう。
ピルの処方以外にも、生理や避妊についての悩み相談にも無料で応じていて、親切で素早い対応が人気です。
ケーゲルベル
ケーゲルベルは、産後や中高年に多い尿もれや子宮脱を防ぐために行う、骨盤底筋のトレーニングアイテムです。
この骨盤底筋のトレーニングは、別名膣トレとも呼ばれています。
トレーニングで鍛えられるのは、骨盤内にある膀胱・子宮・直腸を支えるインナーマッスルです。
ケーゲルベルは、衛生に配慮された大小の医療用のシリコンと、3種類の重りを組み合わせて使います。
トレーニングであるケーゲル体操は、1回5分程度を週3回実施するのが目安です。
重りは、30~250gとバリエーションが幅広く、個人の体に合わせて使えます。
このトレーニングは激しい運動をともなうものではないため、無理なく続けられるのも特徴でしょう。
産後や更年期の方はもちろん、運動不足で筋力低下に悩むデスクワーカーにも支持されているフェムテックです。
エフチェック
エフチェック(F check)は、妊娠を望む方のための卵巣年齢検査キットです。
卵巣年齢とは、卵巣内に残っている卵子の数のことで、状態には個人差があります。
エフチェックは、その卵子の数が何歳に相当するかを調べる日本初のセルフ検査キットとして、働く女性を中心に支持を集めてきました。
エフチェックの大きな特徴として、厚生労働省の承認を受けた検査キットだという点があげられます。
自宅で指先から血液を採取することになりますが、必要な血液は0.1mlとごくわずかです。
採取した血液は、返信用封筒を利用してポストに投函します。
高精度を誇る検査センターの分析結果はメールで通知され、詳細はサイト上で確認できます。
通院が難しい方や誰にも知られない検査を希望する方も多いため、その悩みに寄り添う便利なフェムテックといえるでしょう。
フェムテックの国内ベンチャー企業
保険や地域の事情から、フェムテックが発展しているのは海外が中心です。
しかし、女性の社会活躍を視野に入れる政府の後押しや、新しい市場への期待から、日本でも魅力あるフェムテックが次々に誕生しています。
そのなかでも特に活躍が目立つのは、新規事業に取り組むベンチャー企業です。
ベンチャー企業は、独自のアイデアや技術力を武器に、女性の悩みに寄り添うフェムテックを生み出しています。
ここからは、「BLAST Inc.」「株式会社エバーセンス」「株式会社LilyMedTech」の3社の取り組みや展望を見てみましょう。
BLAST Inc.
BLAST Inc.は、2018年創業のベンチャー企業で、生理用品ブランド「Nagi」と女性向けエンパワーメントメディア「BLAST」を展開しています。
主力商品である「Nagi」は、多くの女性の意見を取り入れながら、約1年半の開発期間を経て完成した吸水ショーツです。
メイドインジャパンにこだわり、生地と縫製技術の高さも商品の価値を高めています。
お腹まですっぽりと覆うフルタイプ・使いやすいスタンダードタイプ・動きやすいスリムタイプといった形のバリエーションやカラーバリエーションの豊富さと、パッケージのおしゃれさも魅力の1つです。
吸水性の高さだけでなく防臭にも配慮されていて、生理の不安や不快感を減らしてくれます。
2021年の「すごいベンチャー100」にも選ばれたBLAST Inc.は、日本政策金融公庫などからの資金調達を実施し、さらなるNagiブランドの拡大を目指しています。
株式会社エバーセンス
株式会社エバーセンスは、妊活・妊娠・出産・育児・ライフスタイルに関するウェブサービスやアプリを展開するベンチャー企業です。
「家族を幸せにするサービスをつくる」という理念のもと、社会の課題を解決するためのサービスを多数リリースしています。
具体的には、生理日・排卵日予測アプリ・産婦人科医監修のメッセージが毎日届く妊娠アプリといったベーシックなものから、父親専用アプリ・祖父母専用アプリなどきめ細やかなサービスが特徴的です。
出産後に使う離乳食レシピアプリ・泣き止み音アプリ・定額制の絵本読み放題アプリなども人気を集めています。
株式会社エバーセンスでは、新卒・中途の垣根を取り払って、意欲的に採用活動を行っています。
セルフキャリアパスや新規事業の提案などの社内制度も充実しているため、自分らしく働き続けられるでしょう。
株式会社LilyMedTech
株式会社Lily MedTechが扱うのは、放射線被ばくや痛みのない乳がん診断装置です。
現在の乳がん検査は、激しい痛みをともなうマンモグラフィー検査や、精度の低いエコー検査が主流となっています。
株式会社LilyMedTechが販売している乳がん画像診断装置(リングエコー装置)は、こうした問題をクリアできる新たなフェムテックとして注目されています。
この装置に採用されている散乱像再構成技術「リングエコー撮像法」は、東京大学大学院工学系・医学系で研究されていた技術であり、株式会社LilyMedTechは、この技術の実用化のために立ち上げられたベンチャー企業です。
その理念や起業モチベーションの高さから、さまざまな賞や助成金を得ることに成功し、乳がんの早期発見を目指す乳房用超音波画像診断装置「COCOLY」の開発に向けて、さらなる展開が期待されています。
まとめ
フェムテックは、今後急速に成長が見込まれる市場をもつ産業です。
これまでタブー視されていた女性特有の心身の悩みに向き合うフェムテックは、女性の社会での活躍を後押しするだけでなく、社会全体で課題を認識できる点に大きなメリットがあります。
しかし、日本においてはまだ新しい概念であるため、医療機関の認可を受けていない商品が多く、保険がきかないといったデメリットもあるでしょう。
フェムテックには7つの分野があり、それぞれの悩みに寄り添う商品が数多く販売されています。
フェムテック業界に興味をもったならば、注目の商品や今後活躍が期待される国内のベンチャー企業などをチェックしてみてください。