はじめに
「100年に一度の変革期の到来」などと形容されるように、自動車業界は新たなテクノロジーの台頭をきっかけに進化と発展を遂げています。
そのなかでも注目される技術の1つに、オートテック(Auto Tech)があります。
オートテックとは、輸送業界・輸送分野で用いられる技術や最先端テクノロジーの総称です。
この記事では、今注目を浴びているオートテックとは何か、オートテックの展望から注目されているベンチャー企業を紹介します。
オートテックについて知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。
オートテック(Auto Tech)とは
オートテック(Auto Tech)とは、Automation(自動化)とTechnology(技術)を組み合わせた造語です。
主に輸送業界や輸送分野で用いられる言葉です。
車の自動運転技術において使われる技術のほかに、自動運転を可能にするアプリケーションや電気自動車も意味に含みます。
別名、カーテック(Car Tech)とも呼ばれています。
世界ではじめて車が発明されたのは1769年で、日本には1898年に海外から初の自動車が持ち込まれました。
〇〇テックという言葉には、さまざまな種類があり、既存の技術に新しいテクノロジーを付加したサービスのことを指す場合が多いようです。
オートテックは、現在注目度の高まるテクノロジー活用の1つに名を連ねています。
注目される背景
オートテック(Auto Tech)が注目される背景には、2つの要素があるといわれています。
1つは、AIの進化が自動運転の実現可能レベルまで高まったことがあげられます。
さらにもう1つは、通信技術の進化により自動運転をより実現しやすい環境が整ったことです。
AIテクノロジーがなければ、自動運転は実用化には至りませんし、通信技術も万全の体制が整っていなければ、自動運転の安全確保は難しくなります。
2つの技術が、オートテックにおよぼした影響について見ていきましょう。
AIの進化
AIとは、Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)のことであり、コンピュータにおける人工知能を意味します。
AIが世界ではじめて定義づけられたのは、1956年のアメリカであり、1960年頃からアメリカやイギリスを主体に開発が進められてきました。
長きにわたり開発が続けられたAI技術は、現在では、自動運転を実用化させるレベルにまで高まっています。
ただ、AI(人工知能)の技術導入については、倫理観からいくつかの問題点も指摘されています。
たとえば、車の自動運転の場合、AIの判断ミスで命が失われるようなケースも考えられるでしょう。
つまり、オートテックにおけるAIの導入は、より高度な次元での実用化が求められているため、さらなる研究が続けられているのです。
通信技術の進化
オートテックに欠かせないAI技術の根幹を支えるのが、通信技術です。
通信技術は、従来の4G(4th Generation)に代わって、5G(5th Generation)が台頭しています。
5Gの通信速度は4Gの20倍ともいわれており、レスポンスが良くなるのはもちろん、4Gの10倍ものデバイスを接続することが可能です。
自動運転技術におけるAIは、1秒たりとも通信にタイムラグが発生してはいけません。
通信が遅れたことで、命を奪われるような事故が発生してはならないからです。
つまり、オートテックにおけるAI技術の定着には安定した通信技術が欠かせないのです。
通信規格が4Gから5Gにバージョンアップされたことで、オートテックはより安定的に技術導入がはかれるようになりつつあります。
市場規模
オートテックの市場規模は非常に大きなもので、研究が進むにつれて裾野が拡大しているといった現状です。
実際、自動運転センサーの市場規模は2020年に243億ドルに達したといわれており、2026年には475億ドルに達する勢いがあると見られています。
オートテックが実用化されると、自動運転だけではなく、カーシェアリングといったサービスや電気自動車というような新たなテクノロジーの開発が進みます。
市場規模の拡大は、事業ジャンルの拡大でもあり、大手企業はもちろんベンチャー企業の参入も増えていく一方です。
2020年には、COVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大により、一時は自動運転センサーの需要は落ち込みました。
しかし、一時は落ち込んだ自動車の生産台数も2021年には持ち直しつつあるため、自動運転センサーの需要はまた回復すると考えられています。
オートテックの12のカテゴリ
オートテックで現在注目されているのは、以下に記す12のカテゴリといわれています。
1.バッテリー式電気自動車
2.バッテリー
3.BEV インフラ
4.Vehicle to Grid(V2G)
5.水素燃料電池車(FCEV)
6.FCEV充電インフラ
7.自律走行システム
8.センシング/ LiDAR
9.コネクテッドカー・プラットフォーム
10.車両データの利活用
11.車載インフォテイメント
12.サイバーセキュリティ
バッテリー式電気自動車や水素燃料電池車(FCEV)は、カーボンニュートラル概念を実現するために欠かせません。
バッテリー本体の研究や充電インフラの拡充が積極的に行われています。
また、蓄電池を平時から活用するVehicle to Grid(V2G)も注目を浴びています。
センシング/LiDAやコネクテッドカー・プラットフォームは、自動運転に必要な環境認識のための技術です。
LiDARは、そのなかでも中心的な役割を担うセンシング・カメラ技術です。
上記で紹介した以外にも、車両データの利活用・車載インフォテイメント・サイバーセキュリティが注目されています。
今回は、そのなかでも特に注目される3つのカテゴリ(バッテリー式電気自動車・自律走行システム・車両データの利活用)について見ていきましょう。
バッテリー式電気自動車
バッテリー式電気自動車は、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量をイコールに保つ)の実現に欠かせないツールの1つです。
2015年に採択された、パリ協定の目標の1つに「カーボンニュートラルな社会を目指す」というものがあります。
2050年までにカーボンニュートラルな社会を目指すには、ガソリン車やディーゼル車の製造を廃止しなければなりません。
自動車業界では、テスラを筆頭に大手企業やベンチャー企業が電気自動車の開発に乗り出しています。
バッテリー式電気自動車の市場は、これからも着実に伸びていくと考えられます。
ガソリン車とディーゼル車の製造廃止ともなると、自動車業界の産業構造が大きく変わることはいうまでもありません。
自律走行システム
オートテックには、自立走行システムが欠かせません。
自立走行システムとは、自動車の自動運転を支える核となるシステムです。
自動運転では、自動車を動かすテクノロジーが必要になるのはもちろん、交通状況といった車外の状況判断もテクノロジーにゆだねなければなりません。
AIには、交通状況を自分で判断し、交通渋滞や事故、前方車両の急な減速といった不測の事態を検知して回避する力が求められます。
また、自立走行システムには、自然環境が要因となる運転環境にも対応しなければなりません。
都市部での走行と田舎道の走行というように、周辺環境のみならず、自動車の運転には自然環境も影響をおよぼします。
たとえば、凍結や雪、濃霧というような環境下で自動車運転の安全性を確保する必要があります。
さらに、整備された道路以外(森林や鉱山、湾岸エリア)でも自立走行ができれば、自動運転を産業分野に活用することも考えられるでしょう。
車両データの利活用
車両データの利活用とは、事故などの緊急対応だけではなく、運転履歴にもとづいた保険料の割引や運転状況の把握を安全管理に活かすことを意味します。
たとえば、衝突事故が起こった場合、車両データを活用して緊急車両などの手配をします。
保険会社へも、事故の状態を車両データから提供することによって、より正確な被害状況の把握につながるでしょう。
車両保険についても、無事故・無違反の車両データを参照することで、保険料の割引が適用になるといった使い方が考えられます。
また、高齢者ドライバーにおける運転スキルの低下も、車両データを通じて対策が打てるようにしておけば、安全管理に一役買うでしょう。
車両データは、運転履歴を記録するだけの使い方から、多岐にわたる活用方法が見いだされています。
国内ベンチャー企業を紹介
オートテック(Auto Tech)については、大手自動車メーカーのほかにベンチャー企業も続々と参入を決めています。
国内で、オートテックに精力的に取り組むベンチャー企業を4つ紹介します。
・日本モビリティ株式会社
・先進モビリティ
・株式会社Preferred Networks
・株式会社日本ベンチャー
ベンチャー企業は、資金力に乏しい反面、1つの分野を突き詰めて開発に力を入れるため、パイオニアとなりうる可能性を秘めています。
それぞれの企業の特徴から、働き方、仕事のやりがいまでを見ていきましょう。
日本モビリティ株式会社
日本モビリティ株式会社は、無人移動サービスの実現を目指す群馬大学発の国内ベンチャー企業です。
自動運転が実現しても、自動運転がきちんと機能するかどうかは、車が走行する環境下によって異なります。
そこで、日本モビリティ株式会社は街づくりのコンサルタントとして、自動運転が安全に実現できる都市づくりのマネジメント役を担っています。
最先端技術の開発だけではなく、既存の都市機能や交通施設を損なわずに無人移動サービスが実用化できるよう、導入計画を策定する仕事に携われるでしょう。
日本モビリティは、事業により、自動運転のシステム開発や運用のみならず、地域開発の促進でコストの削減や安全性の担保を実現します。
国内における無人移動サービスの導入のプラットフォーマーといわれています。
先進モビリティ
先進モビリティは、東京大学発のスタートアップ(新しいビジネスモデルを模索する)企業です。
自動運転を軸とした、移動手段を実現するための研究を事業化したもので、いわゆる移動弱者が抱える問題を先進的なモビリティの開発で乗り越えていきます。
すでに、国土交通省が実施した自動運転トラック隊列走行システムというプロジェクトにおいて、約15kmにおよぶ後続車の無人運転に成功しています。
また、空港ターミナルの輸送ではおなじみとなりつつある、自動運転バスの技術実証にも参画している企業です。
実現可能なテクノロジーの開発を主軸に置きながら、ドライバー不足の解消や地域活性化にも貢献する事業を展開しています。
物流の在り方を根本から変える可能性を秘めており、今後の活躍が期待されている会社の1つです。
株式会社Preferred Networks
株式会社Preferred Networksは、日本のオートテック関連の国内ベンチャーで、もっとも注目を集める企業の1つです。
自分たちにしか提供できない技術を実現すべく、深層学習(ディープラーニング)を強みとしており、自動運転をはじめ幅広い分野に精通しています。
世界的に自動運転をリードする企業や組織との協業・共同開発にも力を入れているのも大きな特徴です。
トヨタ自動車とも手を組んでおり、自動運転やコネクテッドカーに欠かせない、物体認識技術や車両情報解析を2014年から共同研究・開発しています。
事業領域は、交通システムにバイオヘルスケア、製造業、パーソナルロボットと幅広い領域におよびます。
業界に縛られず、企業や組織と提携して事業を進めているため、ジャンルにとらわれない先端技術に携われるでしょう。
株式会社日本ベンチャー
株式会社日本ベンチャーは、自動車やトラックの事故診断テスターの開発・販売を手掛けている国内ベンチャー企業です。
事故診断テスターとは、車に内蔵されている電子システムに故障が起きていないかを調べてくれる機械です。
日本ベンチャーでは、乗用車だけでなく、トラックやバスなどの大型車両の故障診断もできるテスターを販売しています。
製品は三菱ふそうのバスやトラック・いすゞや日野のトラック・トヨタの乗用車に対応しており、通信インターフェイスは、国際標準プロトコル(SAE規格やISO規格)および車両メーカー独自の専用プロトコルに対応しています。
ベンチャー企業の中でも、単一商品の開発を担う会社ですが、対応車種が幅広いといった特徴があるのです。
まとめ
オートテックとは何か、オートテックにおける注目の集まるカテゴリと、国内で活躍するベンチャー企業についてまとめました。
オートテックは、AI技術を背景にしていることで、大学の研究室が立ち上げたベンチャー企業も多く参入しています。
自動車産業のみならず、街づくりや地域活性といった関連事業の展望も明るいのが大きな特徴です。
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