はじめに
皆さんは「段ボール業界」と聞いて、どのようなイメージを持ちますか？もしかすると「きつそう」「地味そう」といった印象を持っているかもしれません。
しかし、段ボールは私たちの生活や経済活動に欠かせない重要なインフラです。
この記事では、段ボール業界の仕事内容や「きつい」と言われる理由、そして業界の将来性や向いている人まで、就活生の皆さんが知りたい情報を徹底的に解説していきます。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界はきつい？
「段ボール業界はきつい」という声を耳にすることがあるかもしれません。
確かに、製造現場では機械を動かすための交代勤務や、重いものを運ぶ作業が発生することもあります。
また、景気やEC市場の動向によって需要が変動しやすい側面も持っています。
しかし、「きつい」の具体的な中身は職種や働く企業によって大きく異なります。
物流を支える社会貢献性の高さや、業界の安定性に魅力を感じる人も多くいます。
イメージだけで判断せず、どのような点が「きつい」と感じられやすいのかを正しく理解することが、自分に合うかどうかを見極める第一歩です。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界の仕事内容
段ボール業界と一口に言っても、その仕事内容は多岐にわたります。
皆さんが普段目にする段ボール箱が完成し、お客様の元へ届けられるまでには、多くの部門が連携して働いています。
例えば、巨大な原紙（ロール状の紙）を機械で加工して段ボールシートやケース（箱）を作る「製造」、製品が決められた基準を満たしているかチェックする「品質管理」、お客様のニーズをヒアリングし最適な段ボールを提案する「営業」、そして強度や形状、印刷デザインなどを考える「設計・開発」などがあります。
どの工程も段ボールという製品を世に送り出すために欠かせない役割を担っています。
業界研究を進める上では、こうした具体的な仕事内容を知り、自分がどの分野で活躍したいかをイメージすることが非常に重要です。
製造オペレーターの仕事
製造オペレーターは、段ボール業界の根幹を支える「モノづくり」の現場担当者です。
主な仕事は、コルゲーターと呼ばれる巨大な機械を操作し、原紙から段ボールシートを製造したり、そのシートをカット、印刷、貼り合わせなどを行い、段ボールケース（箱）の形に加工することです。
機械の操作だけでなく、稼働中の監視、製品の簡単なチェック、機械のメンテナンスや清掃なども重要な業務に含まれます。
多くの場合、工場は24時間稼働しているため、交代制のシフト勤務（例：2交代や3交代）が一般的です。
体力が必要な側面や、機械音の大きい環境で働くことになりますが、自分が携わった製品が形になっていく様子を間近で見られる点は、モノづくりが好きな人にとって大きなやりがいとなるでしょう。
品質管理・検査の仕事
品質管理・検査の仕事は、製造された段ボール製品が、定められた基準やお客様の要求する品質を満たしているかを確認する非常に重要な役割です。
具体的には、製品の寸法、強度、印刷のズレ、汚れ、接着不良などがないかを、専門の測定器具を使ったり、目視でチェックしたりします。
もし不良品が見つかれば、製造ラインにフィードバックし、原因を究明して再発防止策を講じるのも品質管理の役目です。
お客様からの信頼を直接左右する部門であり、高い集中力と正確性、そして「なぜ問題が起きたのか」を考える分析力が求められます。
安定した品質の製品を供給し続けることで、会社の信用を守る「最後の砦」とも言える、責任感とやりがいの大きな仕事です。
営業の仕事
段ボール業界の営業職は、単に製品を売るだけではありません。
お客様である企業（食品メーカー、飲料メーカー、EC事業者、引越し業者など、ありとあらゆる業種）が抱える課題やニーズをヒアリングし、それに最適な段ボールを提案するソリューション型の営業が中心です。
例えば、「商品の破損を減らしたい」「コストを削減したい」「環境に配慮した梱包材を使いたい」といった要望に対し、設計部門と連携して新しい形状や素材を提案することもあります。
既存顧客との関係構築やアフターフォローも重要な仕事です。
BtoB（企業間取引）が基本であり、社会の物流インフラを支えている実感を得やすい職種と言えます。
お客様のビジネスに深く関わり、信頼関係を築いていくことに面白さを見いだせるでしょう。
設計・開発の仕事
設計・開発職は、お客様のニーズや用途に合わせて、段ボールの「カタチ」や「機能」を生み出すクリエイティブな仕事です。
営業がヒアリングしてきた要望をもとに、「どのような商品を」「どのように運び」「どのように陳列するか」を考慮し、最適な寸法、形状、強度、材質（紙の種類や厚み）などを決定します。
CAD（キャド）と呼ばれる設計ソフトを使って図面を作成し、サンプルカッターで試作品を作ることもあります。
最近では、環境負荷を減らすための設計や、店頭で商品を魅力的に見せるためのディスプレイ機能を持った段ボールの需要も高まっています。
自分のアイデアが形になり、実際に商品として流通する喜びを味わえるのが、この仕事の最大の魅力です。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界の主な職種
段ボール業界には、先ほど紹介した仕事内容を担うための様々な職種が存在します。
企業によって呼び方や業務範囲は異なりますが、代表的な職種を理解しておくことで、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
例えば、工場の最前線で機械を動かす「製造オペレーター」、お客様と会社をつなぐ「営業職」、段ボールの形状や機能を考える「設計・開発職」、製品の質を守る「品質管理職」などが挙げられます。
これらに加えて、会社によっては新しい素材や加工技術を研究する「研究職」や、工場全体の生産計画を立てたり、原材料の調達を行ったりする「生産管理・購買職」、総務や経理などの「管理部門」も存在します。
自分がどのような形でモノづくりに関わりたいのか、どの職種が自分の強みや興味と合致するかを考えることが重要です。
製造オペレーター
製造オペレーターは、段ボールシートや段ボールケースを製造する工場の「主役」とも言える職種です。
主な職場は製造ラインであり、コルゲーター（段ボールシートを作る機械）や製函機（箱を作る機械）など、大型の生産設備の操作を担当します。
具体的には、機械の起動・停止、設定変更、原紙や資材の補充、稼働状況の監視、トラブル発生時の一次対応などを行います。
製品の品質や生産効率はオペレーターのスキルに左右される部分も大きく、経験を積むことで機械の特性を深く理解し、より高度な調整技術を身につけることができます。
体力や集中力、そしてチームで連携して作業を進める協調性が求められる職種です。
交代勤務が一般的であるため、生活リズムを整える工夫も必要になります。
営業職
段ボール業界の営業職は、既存顧客のフォローと新規顧客の開拓が主なミッションです。
段ボールはほぼ全ての産業で必要とされるため、営業先は食品、飲料、医薬品、家電、EC関連、物流会社など、非常に多岐にわたります。
ルート営業で定期的に顧客を訪問し、受注活動や納期の調整を行うほか、新製品の紹介や梱包に関する課題解決の提案も行います。
顧客のニーズを正確に把握し、それを設計部門や製造部門にフィードバックする橋渡し役としての役割が重要です。
価格交渉やクレーム対応など、タフな場面もありますが、自分の提案が採用され、お客様のビジネスに貢献できた時には大きな達成感を得られるでしょう。
コミュニケーション能力はもちろん、業界の動向や製品知識を学び続ける姿勢が求められます。
設計・開発職
設計・開発職は、段ボールの機能性やデザイン性を追求する職種です。
営業職と同行してお客様の要望を直接聞くこともあれば、営業からの情報をもとに最適な仕様を検討することもあります。
CADソフトを用いて図面を作成し、強度計算を行ったり、カットサンプルを作成して実際の使用感を確かめたりします。
単に「箱」を作るだけでなく、輸送効率、コスト、環境負荷、売り場での見栄え（POP機能）など、多角的な視点から最適な梱包ソリューションを考え出す必要があります。
モノづくりへの探求心や、新しいアイデアを生み出す発想力が活かせる職種です。
近年は、プラスチックの代替としての段ボール活用など、サステナビリティの観点からも注目度が高まっています。
品質管理職
品質管理職は、製造される段ボール製品が、定められた規格や顧客の要求品質を満たしているかを保証する重要な役割を担います。
製造工程での抜き取り検査や完成品の最終検査を通じて、寸法、強度、印刷精度、汚れ、接着状態などを厳しくチェックします。
万が一、品質に問題が発見された場合は、製造現場と連携して原因を調査し、改善策を立案・実行します。
また、品質基準の策定や改訂、検査方法の標準化、従業員への品質教育なども行います。
データ分析能力や論理的思考力、そして製造部門とも円滑にコミュニケーションをとる調整力が求められます。
地道な作業も多いですが、会社の信頼性を支える「最後の砦」として、強い責任感を持って取り組める仕事です。
研究職（素材開発など）
研究職は、主に段ボールの「素材」そのものや、新しい加工技術、機能性を追求する職種です。
大手メーカーなどに設置されていることが多く、より高性能な段ボールの開発を目指します。
例えば、原紙（ライナーや中しん）の強度を高める研究、水や湿気に強い耐水・防湿加工技術の開発、食品衛生法に対応した特殊な表面加工の研究など、テーマは多岐にわたります。
また、近年では環境問題への意識の高まりから、リサイクル効率の向上や、バイオマス素材の活用といったサステナビリティ関連の研究も重要になっています。
化学や材料工学などの専門知識が求められることが多く、大学での研究内容が直接活かせる可能性もあります。
未来のスタンダードとなる新しい段ボールを生み出す、夢のある仕事と言えるでしょう。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界がきついとされる理由
段ボール業界が「きつい」と言われる背景には、いくつかの具体的な理由があります。
これらは主に職種や働く環境に関連していますが、業界全体の特性も影響しています。
例えば、製造現場では大型機械を扱うため、機械音やインクの匂い、紙粉（紙の細かいくず）が舞う環境で働くことになります。
また、24時間稼働の工場では交代制のシフト勤務が一般的で、生活リズムが不規則になりがちです。
体力的な側面では、部署によっては重い原紙や製品を扱うこともあります。
営業職であれば、顧客からの厳しい納期要求や、景気変動による受注量の波に対応するプレッシャーを感じることもあるでしょう。
こうした「きつい」とされる側面を理解した上で、自分にとって許容できる範囲かどうかを判断することが大切です。
体力的な負担（製造現場）
製造現場、特にオペレーターや構内作業を担当する場合、一定の体力的な負担が伴うことがあります。
段ボールの原紙は巨大なロール状になっており、これを機械にセットする際や、製造された段ボールシート、あるいは梱包された製品を運搬・積載する際には、重量物を扱う作業が発生する可能性があります。
もちろん、現在はクレーンやフォークリフト、搬送ロボットなどの導入により自動化・省力化が進んでいる企業も多いですが、全ての作業が機械任せというわけではありません。
また、広い工場内を歩き回ったり、長時間立ち仕事であったりすることも体力的な負担と感じる要因の一つです。
体力に自信がある人にとっては問題ないかもしれませんが、そうでない場合は、志望する企業の工場見学などを通じて、実際の作業環境や自動化の進捗状況を確認しておくと良いでしょう。
交代勤務（シフト制）
段ボール工場は、生産効率を高めるために24時間体制で稼働しているケースが少なくありません。
そのため、製造オペレーターなどの現場職では、2交代制（日勤と夜勤）や3交代制（朝・昼・夜）といった交代勤務（シフト制）を採用していることが一般的です。
夜勤を含むシフト制は、日中の時間を有効に使える、平日に休みが取れる、深夜手当などで給与が高めになるといったメリットがある反面、生活リズムが不規則になりがちです。
友人や家族と休みが合わなかったり、体調管理に通常以上の注意が必要になったりする点は、「きつい」と感じる大きな要因となり得ます。
自身のライフスタイルや体質に合うかどうか、慎重に検討する必要があるでしょう。
機械音や粉塵（作業環境）
段ボールの製造工場は、原紙を加工するための大型機械が常に稼働しています。
これらの機械からは、連続的で大きな稼働音（機械音）が発生するため、職場環境としては静かとは言えません。
多くの場合、耳栓などの保護具の着用が義務付けられています。
また、紙を高速で裁断・加工する工程では、どうしても紙粉（しふん）と呼ばれる細かな紙のくずやホコリが舞いやすい環境になります。
集塵装置の設置や清掃の徹底など、企業側も作業環境の改善に努めていますが、完全に無くすことは難しいのが現状です。
音に敏感な人や、呼吸器系がデリケートな人、アレルギー体質の人にとっては、こうした作業環境が「きつい」と感じられる可能性があります。
景気変動の影響（BtoB）
段ボールは「景気のバロメーター」と呼ばれることがあります。
これは、段ボールが製品の輸送や梱包に不可欠であり、世の中のモノの動き（＝経済活動）が活発になれば需要が増え、停滞すれば需要が減るという特性を持っているためです。
BtoB（企業間取引）が中心であり、顧客であるメーカーや物流業者の業績に左右されやすい側面があります。
景気が後退局面に入ると、企業の生産活動や個人の消費が落ち込み、それに伴って段ボールの需要も減少する可能性があります。
需要が減れば、工場の稼働率が下がったり、営業職は受注の確保に苦労したりすることになり、それが「きつい」と感じられる一因となります。
ただし、EC市場の拡大など、景気変動とは別の要因で需要が伸びている分野もあります。
納期やクレーム対応（営業・管理）
営業職や生産管理職、品質管理職などは、お客様との直接的なやり取りや、社内の調整業務から「きつさ」を感じることがあります。
段ボールはジャストインタイム（必要な時に必要なだけ）での納品を求められるケースが多く、お客様からの急な発注や厳しい納期変更に対応しなければならないプレッシャーがあります。
また、万が一、製品に印刷ミスや寸法違い、強度不足などの不具合（クレーム）が発生した場合は、営業職が窓口となって謝罪や原因究明、代替品の調整などに奔走することになります。
社内の製造部門や設計部門と、お客様との板挟みになりながら、最適な落としどころを見つけていく調整力と精神的なタフさが求められる場面です。
安定している反面、給与水準が上がりにくい
段ボール業界は、生活必需品や産業活動に不可欠な素材であるため、需要がゼロになることはなく、比較的「安定した業界」と言われます。
しかし、その一方で、製品自体の差別化が難しく、価格競争に陥りやすいという側面も持っています。
特に汎用的な段ボール製品は、原材料費（古紙やパルプ）の価格変動が利益に直結しやすい構造です。
そのため、IT業界や金融業界のように、業績が急拡大し、それに伴って給与水準が大幅にアップするといったケースは稀かもしれません。
安定した雇用環境や福利厚生を重視する人には向いていますが、若いうちから高年収を目指したい、成果次第でインセンティブを多く稼ぎたいという志向が強い人にとっては、物足りなさを感じる（＝きつい）可能性があります。
段ボール業界の現状・課題
段ボール業界は、私たちの生活を支える重要な産業ですが、いくつかの現状と課題を抱えています。
まず現状として、EC（電子商取引）市場の急速な拡大に伴い、宅配便などで使用される段ボールの需要は非常に堅調です。
コロナ禍における「巣ごもり需要」も、この傾向に拍車をかけました。
一方で、課題も山積しています。
最も大きな課題の一つが、原材料である古紙やパルプの価格高騰と、エネルギーコスト（電力・ガス・重油）の上昇です。
これらは製造コストに直結するため、製品価格への転嫁が常に課題となります。
また、環境意識の高まりから、リサイクル率の向上やCO2排出量の削減など、サステナビリティへの取り組みも強く求められています。
EC市場拡大による需要増（現状）
段ボール業界の現状を語る上で、EC（電子商取引）市場の成長は非常に大きな追い風となっています。
インターネット通販の利用が日常化し、特にコロナ禍を経てその勢いはさらに加速しました。
食品から日用品、衣類、家電に至るまで、あらゆる商品が段ボールで梱包され、個々の家庭に届けられています。
この「BtoC」向けの宅配便需要の増加が、段ボール業界全体の需要を下支えしています。
従来の中心であった企業間の輸送（BtoB）に加え、小口・多頻度の配送に適した小型の段ボールや、デザイン性を高めた段ボールのニーズが伸びているのが特徴です。
この傾向は今後も続くと予想されており、業界にとっては安定した収益源となっています。
原材料価格の高騰（課題）
段ボール業界が直面する大きな課題の一つが、原材料価格の高騰です。
段ボールの主原料は「古紙」と「パルプ」ですが、これらの価格は国際的な市況に大きく左右されます。
特に、世界最大の古紙輸入国であった中国が輸入規制を強化したことや、新興国での紙需要の増加、さらには円安の影響で、古紙の調達コストが不安定になりがちです。
また、段ボールを製造する過程では、機械を動かすための電力、蒸気を発生させるための燃料（ガスや重油）など、大量のエネルギーが必要となります。
近年の世界的なエネルギー価格の上昇も、製造コストを押し上げる大きな要因となっており、これをいかに製品価格に適切に転嫁していくかが、各社の経営課題となっています。
環境対応・サステナビリティへの要求（課題）
段ボールはリサイクル率が非常に高い（95%以上）優等生であり、環境にやさしい素材として知られています。
しかし、近年、社会全体でサステナビリティ（持続可能性）への関心が非常に高まっており、業界に対してもさらなる取り組みが求められています。
具体的には、製造プロセスにおけるCO2排出量の削減（脱炭素化）、水資源の効率的な利用、FSC認証（森林管理協議会）など適切に管理された森林からの原材料調達、そしてプラスチック製緩衝材の代替となるような段ボール製品の開発などです。
これらに対応するには、設備投資や研究開発が必要となり、企業にとってはコスト増の要因にもなり得ますが、環境対応を怠る企業は、将来的にお客様や投資家から選ばれなくなるリスクも抱えています。
段ボール業界の今後の動向
段ボール業界の今後は、現状の課題に対応しつつ、新たな価値を創造していく方向に進んでいくと考えられます。
まず、EC市場の拡大という追い風は当面続くとみられ、物流の効率化に貢献する段ボールの需要は底堅いでしょう。
その一方で、単なる「箱」としての機能だけでなく、環境負荷の低減や、商品の付加価値を高める役割がより一層求められます。
例えば、プラスチック包装からの切り替え需要を取り込むための高機能な段ボールの開発や、AI・IoTを活用した工場の自動化・省人化（DX）の推進が加速する見込みです。
また、国内市場が成熟しつつある中で、成長著しいアジア市場など、海外への展開を模索する企業も増えていく可能性があります。
高付加価値・多機能段ボールの開発
今後は、単に「モノを運ぶ」ための段ボールから、「プラスアルファの価値」を持つ段ボールへのシフトが進んでいくでしょう。
例えば、高い防水性や耐油性を持たせることで、これまで段ボールが使われにくかった生鮮食品や冷凍食品の分野での活用が広がっています。
また、商品の鮮度を保つための保冷機能を持った段ボールや、静電気を防ぐことで精密機器の輸送に適した導電性段ボールなども開発されています。
プラスチック製の緩衝材や包装材の代替として、段ボールだけで商品を保護できるような複雑な設計（オール段ボール化）も、環境意識の高まりとともに注目されています。
こうした高付加価値製品の開発力が、今後の企業の競争力を左右すると言えます。
自動化・DXの推進
製造業全体で人手不足が課題となる中、段ボール業界においても工場の自動化・省人化は喫緊の課題です。
すでに多くの工場で製造ラインの自動化は進んでいますが、今後はAI（人工知能）やIoT（モノのインターネット）を活用した「スマート工場化」が加速すると予想されます。
例えば、AIによる画像認識で不良品を検知する品質検査の自動化、IoTで収集した稼働データを分析して最適な生産計画を立てたり、機械の故障を予知したりする取り組みです。
また、営業活動や受発注業務においても、デジタル技術を活用した業務効率化（DX：デジタルトランスフォーメーション）が進むことで、従業員がより創造的な仕事に集中できる環境が整っていくと考えられます。
海外市場への展開
日本の段ボール製造技術や品質管理のノウハウは、世界的に見ても高いレベルにあります。
国内市場は、人口減少などの影響で将来的に大きな成長が見込みにくい側面もあります。
そのため、大手メーカーを中心に、経済成長が続く東南アジアなどの海外市場へ積極的に進出し、現地での生産・販売拠点を設ける動きが活発化しています。
現地の企業を買収（M&A）したり、合弁会社を設立したりする形が一般的です。
海外での事業展開は、為替変動のリスクや、現地の商習慣・文化への対応など、国内事業とは異なる難しさもありますが、企業の持続的な成長のためには重要な戦略の一つとなっています。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界に向いている人
段ボール業界が「きつい」かどうかは、結局のところ個人の価値観や適性によります。
では、どのような人がこの業界に向いているのでしょうか。
まず大前提として、私たちの生活や経済活動を根底から支える「インフラ」としての役割に魅力を感じる人は、大きなやりがいを持って働けるでしょう。
また、製造現場であれ、営業であれ、設計であれ、最終的に「モノづくり」に関わる仕事であるため、製品が形になっていくプロセスに興味を持てることも重要です。
他にも、安定性やチームワークを重視する人、地道な努力を継続できる人には適した環境と言えます。
モノづくりに興味がある人
段ボール業界は、紙という素材を加工して立体的な製品を生み出す、典型的な「モノづくり」の産業です。
製造オペレーターとして巨大な機械を操り、段ボールシートやケースが次々と生み出されていく様子にワクワクする人。
設計職として、CADを駆使して新しい形状や機能を持つ段ボールを考案することに喜びを感じる人。
営業職として、お客様の課題を解決する「オーダーメイドの梱包」を提案することに達成感を得られる人。
このように、職種は違えど、自分が何らかの形で「モノづくり」に関わっているという実感は、この業界で働く上での大きなモチベーションになります。
自分の仕事の成果が「目に見える形」になることにやりがいを感じる人には、非常に向いていると言えます。
安定した業界で働きたい人
段ボールは、食品、飲料、医薬品、日用品、EC関連商品など、私たちの生活に欠かせない「生活必需品」や、あらゆる産業の「生産財」の梱包・輸送に使われています。
そのため、景気の変動によって需要が多少上下することはあっても、需要そのものがゼロになることは考えにくいという特性があります。
IT業界やベンチャー企業のような急成長や派手さはないかもしれませんが、社会インフラの一部として常に一定の需要が見込める「安定性」は、この業界の大きな魅力です。
一つの会社で腰を据えて長く働きたい、浮き沈みの激しい業界よりも、着実にキャリアを積み重ねていきたいと考える人にとって、段ボール業界は非常に適した選択肢の一つとなるでしょう。
コツコツとした作業が苦にならない人
段ボール業界の仕事、特に製造や品質管理の現場では、決められた手順（スタンダード）に従って、正確に作業を繰り返すことが求められます。
製造オペレーターであれば、機械の数値を日々チェックし、微調整を繰り返しながら安定した品質の製品を作り続けます。
品質管理であれば、同じ基準で何百、何千という製品の検査を地道に行います。
こうしたルーティンワークや地道な作業を「つまらない」と感じるか、「品質を支える重要な仕事」と捉えて集中できるかで、向き不向きが分かれるでしょう。
日々の小さな改善を積み重ねたり、コツコツと技術を磨いたりすることに喜びを感じられる人にとって、活躍できるフィールドが広がっています。
体力に自信がある人（職種による）
これは全ての職種に当てはまるわけではありませんが、特に製造オペレーターや工場内の物流（入出庫）を担当する場合、一定の体力はあった方が良いでしょう。
前述の通り、工場内は広い場合が多く、立ち仕事が基本です。
また、交代勤務（シフト制）を採用している職場では、夜勤を含む不規則な生活リズムに対応できる体力的なタフさも求められます。
もちろん、最近は自動化・省力化が進んでいますが、機械のメンテナンスやトラブル対応、一部の重量物の取り扱いなどで、体力が必要となる場面は依然として存在します。
学生時代にスポーツに打ち込んでいた人など、体を動かすことが苦にならない、体力に自信がある人にとっては、その強みを活かせる環境と言えます。
社会インフラを支える仕事にやりがいを感じる人
段ボールがなければ、スーパーやコンビニに商品が並ぶことも、ECサイトで購入した商品が自宅に届くこともありません。
段ボールは、日本の「物流」という社会インフラの、まさに血液を運ぶ血管のような役割を担っています。
決して表立って目立つ仕事ではないかもしれませんが、自分たちの仕事が社会の当たり前の日常を支えているという自負は、働く上での大きなやりがいとなります。
華やかな業界や、消費者から直接「ありがとう」と言われる仕事も魅力的ですが、「縁の下の力持ち」として社会に貢献したい、人々の生活基盤を支える仕事がしたい、という強い意志を持っている人には、段ボール業界は非常にマッチするはずです。
【段ボール業界はきついのか】段ボール業界に向いていない人
一方で、段ボール業界の特性が、自分の価値観や志向と合わない可能性もあります。
どのような人が「向いていない」と感じやすいのでしょうか。
例えば、この業界は比較的安定している反面、変化のスピードが緩やかだと感じる人もいるかもしれません。
日々新しいサービスが生まれ、目まぐるしくトレンドが変わるような業界を好む人には、物足りなく感じる可能性があります。
また、作業環境や給与水準、キャリアパスなど、自分が仕事に求める優先順位と、業界の特性がマッチしない場合も「向いていない」と判断すべきでしょう。
変化やスピード感を最優先したい人
段ボール業界は、長い歴史を持つ成熟した産業であり、そのビジネスモデルや製品自体は、比較的安定しています。
もちろん、技術革新やDXの推進などは行われていますが、IT業界やWeb業界のように、数ヶ月単位で常識が覆るような、目まぐるしい変化やスピード感を体感する機会は少ないかもしれません。
常に新しい刺激を求め、変化の最前線に身を置きたい、自分の裁量でスピーディーに物事を進めたい、という志向が強い人にとっては、業界の持つ「安定性」が、逆に「退屈さ」や「停滞感」として感じられてしまう可能性があります。
華やかな業界に憧れる人
段ボール業界は、社会インフラを支えるBtoB（企業間取引）がビジネスの中心です。
そのため、マスコミ、広告、アパレル、IT（コンシューマー向けサービス）といった、一般消費者（BtoC）から直接注目を集めるような「華やかさ」は、残念ながらあまりありません。
仕事内容も、製造現場での地道な作業や、既存顧客へのルート営業、品質を担保するための検査業務など、どちらかと言えば「堅実」「地味」と捉えられるものが多いでしょう。
仕事を通じて自己表現をしたい、世の中から注目されたいという欲求が強い人は、業界の「縁の下の力持ち」という側面に、やりがいを見出しにくいかもしれません。
ルーティンワークが苦手な人
特に製造オペレーターや品質管理、一部の事務職などでは、決められた手順やマニュアルに沿って、毎日同じ作業を正確に繰り返すことが求められます。
こうしたルーティンワークは、安定した品質や生産効率を維持するために不可欠です。
しかし、毎日違う仕事がしたい、常に新しい課題にチャレンジしたい、定型的な作業はできるだけ避けたい、と考える人にとっては、こうした業務が苦痛に感じられる可能性が高いです。
もちろん、営業職や設計職など、比較的変化の多い職種もありますが、業界全体としては、定常業務の比率が高い傾向にあることは否めません。
体力的な作業を避けたい人（職種による）
営業職や設計職、本社勤務の管理部門など、デスクワークが中心の職種であれば、体力的な負担はほとんどありません。
しかし、製造現場（オペレーター）や工場内の物流担当などを希望する場合、ある程度の体力は必要となります。
前述の通り、立ち仕事、交代勤務、重量物の取り扱い（頻度は企業や部署による）などが伴うためです。
体力に全く自信がない人や、デスクワークのみを希望する人は、こうした現場職を志望すると、入社後に「きつい」と感じてしまう可能性が高いです。
自分の体力や健康面と、希望する職種の業務内容を照らし合わせて考える必要があります。
粉塵や音に敏感な人
段ボール工場では、大型機械が稼働する「音」と、紙を加工する際に発生する「紙粉」が避けられません。
もちろん、企業は耳栓などの保護具の支給や、集塵設備の導入、定期的な清掃などで作業環境の維持・改善に努めています。
しかし、聴覚が非常に敏感で大きな音が極端に苦手な人や、アレルギー体質、喘息持ちなどで、ホコリや粉塵に敏感に反応してしまう人にとっては、こうした環境で長時間働くことは、身体的・精神的な「きつさ」に直結します。
工場見学などで、実際の環境を自分の目で確かめておくことが重要です。
段ボール業界に行くためにすべきこと
段ボール業界に興味を持ち、「ここで働いてみたい」と思ったなら、具体的な就活準備を進めましょう。
他の業界と大きく異なる点はありませんが、特にBtoB企業であり、学生の皆さんには馴染みが薄い業界だからこそ、「なぜこの業界なのか」「なぜ他社ではなく御社なのか」を深く掘り下げることが重要になります。
なんとなく「安定してそうだから」という理由だけでは、熱意は伝わりません。
業界の特性や、各企業の強み・弱みをしっかり理解するための行動が、内定への近道となります。
企業研究とインターンシップへの参加
まずは、段ボール業界にどのような企業があるのかを知ることから始めましょう。
業界には「レンゴー」「王子ホールディングス」「日本製紙」といった巨大な総合製紙メーカー系の企業から、特定の地域や特定の製品（例：化粧箱、重量物用段ボールなど）に強みを持つ専門メーカーまで、様々です。
各社のウェブサイトや就活情報サイトで、強み、事業内容、社風、募集職種などを比較検討しましょう。
可能であれば、インターンシップや工場見学に参加することを強くお勧めします。
BtoB企業は、実際に働く現場を見ないとイメージが掴みにくいものです。
工場の雰囲気、機械の大きさ、働いている人の様子を肌で感じることで、志望動機がより具体的になります。
志望動機の明確化（なぜ段ボールか）
面接で必ず聞かれるのが「なぜ段ボール業界なのですか？」という質問です。
ここで、「安定しているから」や「ECが伸びているから」といった、誰でも言えるような表面的な理由だけでは不十分です。
なぜ、数あるモノづくり産業の中で、段ボールなのか。
なぜ、物流インフラを支える仕事に魅力を感じたのか。
例えば、「インターンシップで見た、たった一枚の紙が強固な箱に変わる技術力に感動した」「環境負荷の低い素材として、プラスチックの代替など社会課題の解決に貢献できる点に将来性を感じた」など、あなた自身の経験や価値観と結びつけた具体的なエピソードを盛り込むことが重要です。
必要な資格の確認（特に技術職・製造職）
文系の営業職や管理部門であれば、入社時に必須となる資格は特にない場合がほとんどです。
しかし、理系の研究職や設計職、技術職を希望する場合は、大学での専攻（化学、材料工学、機械工学など）が問われることがあります。
また、製造職や物流職では、入社後に「フォークリフト運転技能者」の資格取得を奨励・必須としている企業もあります。
もちろん、これらの資格が応募時に無くても選考は受けられますが、例えばフォークリフトの資格を学生のうちに取得しておけば、入社意欲の高さや、現場で即戦力になりたいという姿勢をアピールする材料にはなるかもしれません。
適職診断ツールを用いる
「段ボール業界について調べてみたけれど、そもそも自分に合っているのか分からない」と悩む人もいるでしょう。
そんな時は、客観的に自分の特性を知るために「適職診断ツール」を活用するのも一つの手です。
就活市場にも様々な診断ツールがありますが、これらはあなたの性格や価値観、強み・弱みなどをいくつかの質問から分析し、どのような仕事や業界、職種に向いているかの傾向を示してくれます。
診断結果が「段ボール業界」と直接出なくても、例えば「安定志向」「モノづくりに関わる仕事」「チームで協力する仕事」といったキーワードが出てくれば、この業界との親和性が高い可能性があります。
あくまで「参考」ですが、自己分析を深めるきっかけとして役立ちます。
【段ボール業界はきついのか】適性がわからないときは
段ボール業界に限らず、就職活動で「自分に合う仕事がわからない」という悩みは、多くの学生が抱えるものです。
記事を読んで「きつい」側面を見て不安になったり、逆に「向いているかも」と思っても確信が持てなかったりするかもしれません。
そんな時は、一人で抱え込まず、様々な方法で自己分析を深めたり、他者の意見を聞いたりすることが大切です。
適職診断ツールを使ってみるのも良いですし、大学のキャリアセンターで相談する、段ボール業界に限らず色々な業界の社会人の話を聞いてみる（OB・OG訪問）のも有効です。
自分を理解し、業界を理解する、その両輪を進めることで、徐々に自分なりの答えが見えてくるはずです。
おわりに
今回は、段ボール業界について、「きつい」と言われる理由から、仕事内容、将来性、向いている人まで幅広く解説してきました。
段ボールは、社会の血液である物流を支える、目立たずとも非常に重要な存在です。
業界の安定性やモノづくりの面白さ、社会貢献性の高さなど、魅力的な側面も多くあります。
大切なのは、イメージだけで判断せず、正しい情報を集め、自分の目で確かめることです。
この記事が、皆さんの業界研究の一助となり、納得のいく企業選びにつながることを心から願っています。
