はじめに
再生医療を取り巻く環境は、この数年で大きく変化していきました。
たとえば再生医療イノベーションフォーラムが2011年に設立されたとき、会員企業数は14社のみでした。
しかし2021年現在は、256社が会員になっています。
従来の製薬会社や医療機器を製造する企業だけでなく、これまで医療とは無縁だった業界の企業も市場に参入してきています。
そういった中で着実に数を増やしているのが、再生医療を取り扱うベンチャー企業です。
今回、再生医療ベンチャーはどのような業務をしているのかという点や現状、今後の課題について詳しくお伝えしていきます。
ぜひとも参考にしてください。
【再生医療ベンチャーって何するの?】そもそも再生医療とは?
再生医療はトカゲが尻尾を元通りに復元するように、人間の「再生する力」を活かすものです。
病気や事故などによって、失われてしまった体組織の再生を目指す医療です。
従来の薬を使った治療とは、まったく異なる治療方法といえます。
有名なのは京都大学の山中教授が、作製に成功した幹細胞「iPS細胞」でしょう。
身体を形作っている細胞は、いずれも最初は「幹細胞」と呼ばれるものからスタートします。
そこから臓器や組織になる変化(分化)を通して役割を固定させていきますが、iPS細胞は未分化の細胞です。
つまりiPS細胞は、さまざまな臓器や組織になれる可能性のある細胞です。
そのiPS細胞を用いて再生した体組織を移植すれば、再び健康な身体を取り戻せるでしょう。
そのほか受精卵を利用する「ES細胞」や、元々体内に存在している「体性幹細胞」を活用した再生医療が研究されています。
再生医療の現状は?
京都大学のホームページによると、iPS細胞の治験は以下のとおりです。
2014年 加齢黄斑変性の患者へ移植
2018年 ドパミン産生神経細胞をパーキンソン病の患者に移植
また以下3件の治療薬開発も行われました。
2017年 FOP(進行性骨化性線維異形成症)の候補薬
2019年 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした創薬治験
2020年 家族性アルツハイマー病患者を対象とした創薬治験
さらにiPS細胞を用いたがん治療「がんワクチン」も研究されています。
がんワクチンやiPS細胞の活用などについては、大きく発展しているといえるでしょう。
しかしまだ再生医療の分野は臨床段階であり、実用化に至っていません。
しかし実用化されれば、さまざまな病気を根治させる手段になるでしょう。
再生医療のこれから
再生医療の将来性は明るく、積極的な研究を促進したいという観点から国などでもさまざまな制度でバックアップしています。
2017年には医療機器と医薬品を対象として再生医療の実用化を進めていくと、厚生労働省の通知もありました。
国全体で再生医療の研究・臨床、治験を進めていく方向です。
今後予算などに関しても、大きく上積みされていく可能性があるでしょう。
再生医療の分野は実用化されれば、医療の現場において画期的な変革をもたらすことが期待されています。
そのバックアップ体制も今後さらなる拡充が期待できるでしょう。
まだ時間はかかりますが、今後再生医療に関わる技術は国の後押しもあり、さらなる発展が見込まれています。
実用化に至る例も増えてくるでしょう。
【再生医療ベンチャーって何するの?】再生医療ベンチャーの仕事内容
再生医療ベンチャーは数多くあります。
業務内容は主に以下のとおりです。
・研究開発
・生産技術、品質管理
・営業、マーケティング
ただし企業として、どれか1つだけを手がけているのではなく、それぞれの部署に分かれて業務を行っています。
以下からはそれぞれの項目について、概要を確認していきましょう。
研究開発
さまざまな技術の研究を進め、ニーズに対応した製品を製造することが、ベンチャー企業に最も求められている業務です。
臓器などを三次元で再生する研究をしている企業、血管の再生を研究している企業などもあります。
現状では、この分野の仕事が多く求められているといえます。
また歯槽骨再生療法の研究をしている企業など、研究内容は多岐にわたるのです。
いずれの研究も、これまでの医療や治療薬では克服できなかった病気や症状に対応したものです。
研究開発が順調に進めば、治らないとされていた病気などの、克服が現実的になってくるでしょう。
生産技術・品質管理
再生医療に関わる製品をいかに効率的に、高品質で生産できるかを研究し、現場の改善をしていく業務です。
たとえば名古屋大学の加藤竜司准教授と、株式会社ニコンなどの研究チームの新しい技術があります。
これまでヒト間葉系幹細胞がどれだけ分化しているかという程度は、染色などで細胞を破壊する方法でしか数値化できませんでした。
しかし新しく開発された方法では、培養した細胞の顕微鏡画像を、コンピューター解析するだけで評価と事前予測までできるのです。
このおかげで医師の多大な労力を必要としていた、治療用細胞の品質を管理する手間は大幅に軽減されました。
さらに最も効果的な治療日を予測することも、可能になったのです。
直接的な治療方法に結びつくわけではありません。
しかし製品の生産性を上げることで、医療がより手軽に受けられるようになったり、費用を安くしたりできるといえます。
営業・マーケティング
自社の商品を売り出していくために営業などを行っていくことです。
企業の研究には研究資金が不可欠です。
しっかりと自社製品の魅力を打ち出してスポンサーに訴え、研究資金を確保していく必要があります。
あるいは大学や企業と、共同研究をすることも考えられるでしょう。
また市場を分析しどのような治療方法が求められているのか、どのような生産方法が現場に必要なのかも、見極めていくことも大切です。
完成した製品を売り出していくだけでなく、自社の研究を根幹から支える極めて重要な業務といえるでしょう。
【再生医療ベンチャーって何するの?】再生医療ベンチャーの特徴
再生医療の分野に限らず、ベンチャー企業の特徴として以下のものがあげられます。
・成長志向が強い
・フットワークが軽い
・スピード感がある
・投資機関などからの資金援助を受けている
・新たな価値観、明確なビジョンをもっている
その特徴が「新しい技術やビジネスモデルを保有する、設立から間もない会社」という、ベンチャー企業のイメージを形作っています。
あくまで以上のような特徴があるだけであり、ベンチャー企業という言葉にはっきりした定義はありません。
再生医療ベンチャーは、大学や海外とも共同研究をすることも多くなっています。
これは再生医療という営みが、研究や臨床現場と切り離せない存在であるためです。
この点が一般ベンチャー企業とは異なる点といえるでしょう。
再生医療ベンチャーの特徴について、より詳しく見ていきます。
コロナの影響もあり企業参入が活発化している
厚生労働省のホームページに「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第4版」という、データがあります。
こちらによると、新型コロナウイルス感染者のうち、80%程度は軽症のまま治癒しますが、20%は肺炎症状が増悪し入院することになります。
入院したうち5%程度は集中治療が必要なほど重症化し、2~3%で致命的な状態に陥ることが明らかになっているのです。
重症患者の場合は人工呼吸器が必要になります。
そのような患者に対して、東北大学が2010年に発見した「Muse細胞」を用いる臨床試験が、今年の5月に行われています。
体内に投与されたMuse細胞は、傷ついた臓器が発するSOSに導かれて集まるのです。
そこで集まった臓器細胞に分化し、臓器を修復します。
この臨床試験はニュースでも報道され、注目が集まりました。
新型コロナウイルスは多くの被害をもたらしましたが、それをきっかけとして再生医療のさらなる可能性が示されたともいえます。
新規に参入する企業も、コロナ禍の中で増えてきているのです。
市場に対する柔軟性をもつ
前述したように、新型コロナウイルスは、新しい薬や治療方法を私たちに模索させ続けています。
下記の活動も、コロナ禍によって開始されました。
・マイキャン・テクノロジーズ株式会社
コロナウイルスが増えやすい遺伝子を導入した「研究用血球」を開発
・ヘリオス
体性幹細胞再生医薬製品「マルチステム」の治験を、アメリカのベンチャー企業と共同で開始
・バイオミメティクスシンパシーズ
新型コロナウイルスの治療効果が期待できる物質「キノロン系化合物」の、共同研究に関するライセンス契約をロート製薬と締結
・RMiC
新型コロナウイルスワクチンを、慶応義塾大学の研究グループと共同開発する契約を締結
現在のような流動的な状況に、スピード感をもって対応できるのが再生医療ベンチャーの長所といえるでしょう。
コロナワクチンに関する研究をするような企業も出てきており、世の中で求められている技術に迅速に対応できているのです。
人材不足が加速している
再生医療に携わるためには知識が必要なため、高い需要に反して人材は不足しています。
研究機関の価値観が企業と異なることや、ベンチャー企業の知名度が低いことによって人材交流が進んでいないことも課題です。
また非常に高度な専門知識が必要なので、バイオベンチャー企業の募集資格も狭き門になっています。
再生医療ベンチャーには、以下のような特徴が見られます。
→リスクを回避したい人材は、ベンチャー企業を避ける傾向にある
・(ITベンチャー等と比較し)研究開発に一定の設備投資が必要
→常に大学や、病院の施設を使えるわけではない
社会的に必要とされているにもかかわらず、以上のような理由で再生医療ベンチャー企業に人が集まりにくい状態になっています。
【再生医療ベンチャーって何するの?】再生医療ベンチャーの事業例
次は実際にある再生医療ベンチャーをご紹介します。
多くの企業があるためあくまで一例になりますが、今回は以下の5つをご紹介しましょう。
・株式会社メトセラ
・株式会社Myoridge
・サンバイオ株式会社
・株式会社リプロセル社
・メガカリオン
それぞれ詳しく見ていきましょう。
株式会社メトセラ
株式会社メトセラのキャッチフレーズは「心不全治療に、革命を起こす」です。
2016年に立ち上げられた山形県の会社で「心筋繊維芽細胞(VCF)」を用いた、再生治療方法を研究・開発しています。
VCFの特徴は、以下の2点です。
・低コストで、しかも容易に培養できる
・心臓内でのリンパ管新生や心筋細胞の増殖を促進し、心組織の回復をうながす
そして日本ライフライン株式会社との共同研究を通して「MTC001」という、VCFと投与用の特殊なカテーテルを組み合わせた、患者に負担が少ない製品を開発しています。
Myoridge
「株式会社Myoridge」は2016年に立ち上げられた京都府にある会社です。
「iPS細胞由来心筋細胞の開発」と細胞培養に必要な「培地開発支援」や、心筋の動きを解析できる「心筋動画運動・輝度解析用ソフトウェアの提供」を手がけています。
そのほか心筋細胞のシート化技術の提供や、製造プロセス開発支援など幅広く業務を展開しているのです。
東京大学と東京工業大学でMyoridgeの作製した心筋シートが用いられたり、日立製作所と培養方法を開発したりしています。
また米国Avery社とライセンス契約を締結したりと、一企業にとどまらない活動を行っています。
前述したメトセラは「心筋繊維芽細胞」を活用していますが、こちらは「iPS細胞由来心筋細胞の開発」をしていることが違いといえるでしょう。
サンバイオ
「サンバイオ株式会社」は2001年創業、2013年に設立された東京の会社です。
脳こうそくや外傷性脳損傷、アルツハイマー病など既存の医薬品では対処できない疾患に対して、再生細胞薬を開発しています。
以下で独自の開発薬「SB623」の特徴を列挙します。
・成人骨髄由来の間葉系幹細胞を加工・培養して製造したもの
・従来の医療・医薬品では対処できなかった中枢神経領域の疾患を対象とする
・脳内の神経組織に投与されると再生機能を誘発し、失われた運動機能の改善をうながす
再生細胞を薬のように活用している点は興味深い点でしょう。
そしてサンバイオの再生細胞薬は、他家移植という方法で製造されています。
他家移植とは健康なドナーの骨髄液から採取した細胞を、大量に培養して均質な製品を製造する方法です。
自家移植と違って、安価で製造しやすいという特徴があります。
従来の製薬企業モデルが適用できるという点も、長所といえるでしょう。
リプロセル
「株式会社リプロセル」は2003年に設立された神奈川県の会社です。
山中教授がiPS細胞をはじめて樹立した際に使用していたのが、リプロセルの培養液でした。
リプロセルの業務内容は「研究支援事業」「メディカル事業」の2つがあります。
これらが共同しながら、再生医療技術を用いて、難病や疾患などの治療方法、研究試薬などを研究開発しているのです。
リプロセルの研究拠点は、日本以外にもアメリカとイギリスに存在しています。
海外の規制にも対応した製品づくりを進めていけるでしょう。
メガカリオン
「株式会社メガカリオン」は2011年に設立された京都の企業で、輸血に応用できるiPS細胞由来の血小板製剤の開発をしています。
血小板は血管が損傷したときに、出血を止める重要な役割のある成分です。
特に手術では、大量に必要とされる成分です。
しかし冷凍保存はできません。
常温での保存期間はわずか4日程度しかありません。
赤血球が21日、血しょうにいたっては1年間保存ができると考えれば、非常に短い期間しか保存できないことがわかるでしょう。
実用化には至っていませんが、今後多くの人を救える事業の1つです。
【再生医療ベンチャーって何するの?】まとめ
今回は再生医療ベンチャーの現状や業務内容、具体的な企業についてなどのさまざまな事柄を取り上げていきました。
ベンチャー企業は柔軟性があり、今まさに必要とされている技術に取り組めるという、大手には真似できない業務を進めていけます。
そして未開拓の状態であるからこそ、企業の努力が明らかな形で示されやすいのです。
自分の努力や所属する企業の成長による、達成感を味わえるでしょう。
今回は5つの企業しか取り上げていませんが、日本国内だけでも多くの再生医療ベンチャーが活躍しています。
さまざまな企業を比較検討する中で、ぜひとも自分にぴったりの再生医療ベンチャー企業を見つけてください。