はじめに
「インシュアテック」という言葉を見かけたことはあるでしょうか。
数年前から保険業界で注目を集めている、テクノロジーを活用した新しいサービスの総称です。
このインシュアテックによって、保険業界は変革の時期を迎えています。
日本国内でも保険市場は約51兆円と規模が大きいです。
今回は、インシュアテックがどのような影響をもたらし、保険業界の未来を変えようとしているのか探っていきましょう。
実例もあわせて紹介します。
インシュアテックとは
インシュアテックとは「保険(Insurance)」×「技術(Technology)」を掛け合わせた造語です。
経済産業省が2017年に発表した「フィンテック(FinTech)ビジョン」では、保険分野でのフィンテックと定義されています。
テクノロジーを活用し、消費者の潜在的ニーズから新しい保険商品を開発できます。
インシュアテックは保険会社だけではなく、保険販売代理店や消費者の課題解決に役立っているのです。
インシュアテックの市場規模
インシュアテックの市場規模は日本国内でも年々拡大しています。
きっかけはやはり経済産業省のフィンテックビジョンでした。
キャッシュレス決済や仮想通貨など、金融商品のデジタル化を推進するものです。
保険も金融商品であることから、インシュアテックの重要性が認知され始め、2019年には890億円もの規模に膨れ上がっています。
今後も市場はどんどん拡大していくとの見方で、「2022年に市場規模は2000億円を突破する」と言われています。
インシュアテックの保険会社・消費者のメリット
従来型の保険では、しつこい勧誘を受けた経験がある方も多いでしょう。
また、必要な書類が多く、それらを集めたり記入したりするだけでも一苦労でした。
これでは保険に対して良いイメージをもてません。
インシュアテックを活用すると、今までよりも大幅に保険の手続きが簡易化されます。
簡単になれば、加入のハードルをかなり下げることが可能です。
保険会社・消費者それぞれのメリットは、具体的にどのようなものがあるでしょうか。
時間を短縮できる(保険会社)
保険会社にとってもっとも大きなメリットは、業務にかかる時間を大幅に短縮できることです。
これまでのやり方では、必要書類を集めて記述し提出のあと、さらに専門家による査定が必要でした。
その大変だった過程がITを導入することによって短縮されます。
また、お客様から寄せられた意見をまとめて分析することも可能です。
実際に分析結果はお客様へのサポートに役立てたり、人材教育に活かしたりしています。
インシュアテックを活用することで、手間を省いて業務を効率化できるのです。
時短や業務効率化の恩恵は、保険に加入する側である消費者も受けられます。
加入時のわずらわしさが少なくなることは間違いありません。
損害請求の際も、入金までの時間や労力がかからなくて済みます。
保険を手軽に加入できる(保険会社・消費者)
手軽に保険加入できるようになることもメリットといえます。
これまでは、保険は一度入ったらなかなか抜けるのが難しいものでした。
「手続きが煩雑で、何十年もお金を払い続けなければならない」というマイナスのイメージを抱いている人は多いでしょう。
インシュアテックの活用によって、この問題を解決できます。
今や老若男女が持っているスマートフォン1つで保険の申し込みが可能です。
対面での申し込みのために営業とアポを取る必要もなく、最適な保険を選べます。
自分では選べない人も心配はいりません。
ウェアラブルデバイスと連携し、読み取った健康データからAIが保険商品を提案してくれます。
手軽に加入できるようになれば、消費者だけでなく保険会社にとっても喜ばしいことです。
利用者に合った保険が選べる(消費者)
消費者のメリットとして、利用者にあった保険を選びやすくなることがあります。
利用者本人の健康データをビッグデータとして蓄積し、それを保険料算出の目安として利用できるのです。
健康状態が良好であれば、将来的に大病を患うリスクが低いと判断され、保険料が安くなります。
要するに、必要のない保障に高いお金を払わなくて良いということです。
これまでの保険では、年齢や家族構成などから判断し、おすすめの保険を提示されていました。
それらは保険会社目線の商品であって、消費者の立場に寄り添っているとは言い難いものでした。
インシュアテックの広がりによって、照合したデータから本当に自分に合った保険商品を見つけられるようになります。
デメリット
インシュアテックについて知れば知るほど、メリットしかないように思うかもしれません。
時間の効率化ができ、利用者に合った保険を選べるインシュアテックに、はたしてデメリットはあるのでしょうか。
「唯一」と言ってもいいデメリットが、保険料が高くなるリスクをはらんでいることです。
無駄な保障を避けることができ、保険料を抑えられると前述したばかりなのに、高くなるとはなぜでしょう。
それは、IT化の側面でもあるのです。
保険料が高くなるリスク
利用者が健康であれば、保険料は安くなります。
健康データを蓄積したビッグデータからそう判断されるからです。
しかし、既往症がある人や、普段から運動不足・乱れた食生活を送っている人は、保険料が高くなります。
現在は元気でも、データから読み取られるのは不健康、つまりリスクが高いといえるのです。
同じ年齢層の人と比べて割高になってしまいます。
また、保険商品に加入したあとも健康でいなければ保険料は上がってしまうでしょう。
なぜなら、IT化によって利用者の健康データが継続して更新されていくからです。
病気や怪我などで体調を崩した場合、保険料が高くなる可能性もあります。
健康診断の結果でもデータとして蓄積されていくため、気を抜けません。
インシュアテックによって生まれる新しい保険
インシュアテックの活用によって、新しい保険商品がすでに誕生しています。
消費者の意見も含めた、さまざまなデータを利用できるからこそです。
今までなかった商品を展開できることは、新たな需要につながります。
保険会社と顧客の間では、コミュニケーションの手段も変わってくるでしょう。
IT化の流れについていける力のある企業が、勝ち残っていく時代が訪れているのです。
すでに生み出されている新たな保険商品の事例を紹介します。
オンデマンド保険
1つは、オンデマンド保険です。
オンデマンド、つまり消費者の要求に応じて受けられる短期間の保険のことを指します。
たとえば、「1日自動車保険」や「国内旅行保険」があります。
スマートフォンやパソコンなどから、必要なときだけ気軽に入会できる保険です。
短期間なので保険料も安く抑えられるのがポイントです。
これまでは契約を結ぶのに保険会社の窓口へ出向く必要がありました。
また、数日間のみ加入できるものもありませんでした。
オンデマンド保険は手軽に加入でき、目的に合わせた保障を受けられます。
所有しているタブレットやカメラなどの高額商品も保険の対象です。
今後はドローンも対象となりそうな動向が見られます。
まさに消費者目線の新しい保険商品といえます。
テレマティックス保険
ほかにも、テレマティックス保険があります。
車両に搭載した端末で、ドライバーの運転データを収集・分析し、見合った保険料を算出する自動車保険のことです。
連動するものによって大きく分類されます。
「走行距離」に連動するものは、実際に走行した距離分の保険料が必要です。
一方、「運転行動」に連動するものは、運転するスピードや急ブレーキの有無など、ドライバーの特性から判断されます。
安全な運転とされれば保険料は下がり、危険な運転とされれば保険料は上がります。
つまり事故のリスクが高いのか低いのかで判断しているのです。
収集される情報は漏えいしないよう、管理を徹底しなくてはいけません。
また、危険な運転をしているドライバーには、別途保険の加入を促すなどの対処も必要です。
仕事が楽になる
インシュアテックを導入することで、保険会社は仕事が楽になります。
これまでは保険の審査業務がもっとも時間と手間のかかる業務でした。
この審査は、申込内容と提出された書類の内容を精査し、保険に加入できるかを判断するものです。
それがIT化によってAIが審査のサポートをしてくれるので、営業担当の実務時間が減ることになります。
作業を短縮できるだけでなく、データにもとづいた正確な審査がされるため、よりいっそうサービス向上につながるでしょう。
国内の実例
もともとインシュアテックは、ヨーロッパ、アメリカなどを中心に普及しました。
それらに比べると、日本国内での普及は遅れているといわざるをえません。
それでもフィンテックビジョン以降は、国内でも多く導入されるようになりました。
大手の保険会社がインシュアテックを積極的に取り入れています。
また、ベンチャー企業の参入も多くなっており、その動向については目が離せません。
ここでは、特に注目されている3つの事例を紹介します。
SmartDrive
ベンチャー企業のSmartDriveは、テレマティックス保険を取り扱っている会社です。
大手保険会社であるAXA保険と連携し、自動車の走行データにもとづいた自動車保険を販売しています。
車両に「SmartDriveデバイス」を設置し、ドライバーのデータを取得します。
リアルタイムで移動を認識することで、さまざまなサービスを提供可能です。
たとえば、安全運転をしているドライバーにはポイントを付与します。
また、高齢のドライバーである場合には見守りを行うなどのサービスも魅力です。
「移動の進化を後押しする」というビジョンを掲げ、蓄積したデータをリスクマネジメントに活用しています。
これからのモビリティデータのプラットフォームとして活躍するでしょう。
Warrantee Now
Warranteeも注目を集めているベンチャー企業の1つです。
家電を対象品目として、1日単位で加入できるオンデマンド保険「Warrantee Now」を提供しています。
大手保険会社と共同で新たなサービスの展開をしてきました。
スマートフォンのアプリから必要な物品に特化して必要な期間分の保険をかけることができます。
実際に故障などが発生した場合に、修理代まで出してくれるのが特徴です。
特に若い世代をターゲットとしています。
それぞれのライフスタイルに合わせられる点が魅力です。
1日わずか10円程度の保険に、いつでもどこからでも手軽に加入・解約ができます。
保険商品への新たな需要を生み出すサービスとして期待されています。
WEALTHCARE
3つめに紹介するのはアプリの「WEALTHCARE」です。
Sasuke Financial Labが運営しています。
家計のノウハウに対する助言や提案を手軽に体験できるサービスです。
入力した家計状況や家族情報を分析し、それにもとづきアドバイスを受けられます。
消費者それぞれに合った、本当に必要な保険を見つけるためのアプリです。
体系的に学べるマネー講座や、専門家によるコメント付きのマネーニュースがあり、人気を集めています。
親しい間柄でもお金の話はしにくいものです。
スマートフォンのアプリで家計の分析を受けられる点に魅力があります。
未婚・既婚問わず、堅実に貯蓄を増やしたいと考える人に幅広く受け入れられています。
まとめ
今回は、近年日本国内でも大きな注目を集めているインシュアテックについて紹介しました。
「保険業界に革命をもたらす」と言われているインシュアテックは、今後ますます目が離せません。
保険会社にとっても消費者にとっても、非常に望ましい展開になることは間違いないでしょう。
欧米に比べると後れをとっている日本でも、確実にIT化は進んできています。
保険離れが顕著な若い世代に対しても、新しい保険商品で需要を呼び起こすはずです。