はじめに
「SDGs」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これは、持続可能な世界を実現するためにさまざまな課題を掲げて取り組まれているもので、限りある資源を保護することも目的の一環となっています。
人口増加とともに需要が高まっている水資源対策もそのうちの1つであり、水の再生利用というのは世界規模で重要な問題です。
そこで今回は、ビジネスチャンスの広がりを見せている水処理分野で活躍している企業についてくわしくご紹介します。
水処理ビジネスとは
文字通り、水を処理するための技術の開発や機械の製造などを行う業界です。
地球上には、海水や淡水など大量の水が存在していても、人間がすぐに利用できる水というのは非常に少なく、全体の0.01%しかありません。
「限られた水をどのように使うか」というのは世界での課題となっており、水処理ビジネスの取り組みは、地球環境や資源保護の観点においても意義のあるものです。
水資源を活用するためのインフラ設備や水源開発・海水の淡水化・工業用水供給など、水に関する事業は多岐にわたっています。
市場規模
国内の水処理に関するビジネスの市場規模は、2020年で8826億円でした。
世界的に見ると、2007年時点では約36兆円でしたが、人口増加にともなう水需要の高まりにより、2025年には倍以上の87兆円になると予測されています。
そのうちの約85%は、上水道供給と下水処理の事業が占めており、海外の水ビジネスでは事業を運営・経営する維持管理分野の規模が大きいという特徴があるのです。
アメリカでは「今後100兆円以上の予算を水道事業に費やす必要がある」という試算も出ています。
それほどまでに、水に関する世界の需要が急速に高まっているといえるでしょう。
日本は高い技術力を持っているため、今後さらに水処理業界でその技術を活かすことが期待されています。
水処理ビジネスの国内の現状
日本は主に地方自治体が上下水道事業を経営しているので、民間企業は事業経営に携わる経験が少なく、そこが水処理業界における日本企業の弱点でした。
昨今では、節水機器の普及などによる収益の落ち込みや、水道法改正などにより、自治体と民間企業での連携意識が強まっています。
互いのノウハウを組み合わせることで、ビジネスの幅を広げられるからです。
しかし、水処理ビジネスに参入している企業はまだまだ少なく、専門の大企業はありません。
そのため、中小企業やベンチャー企業がさまざまな活躍を見せています。
宮城県では、全国初となる水道事業の民営化が開始されました。
こういった変化により、今後、日本企業の水処理分野への本格的な参入がはじまっていくでしょう。
水処理ビジネスのこれから
これまでもお伝えしたように、人口増加による水の需要はさらに増えると予想されています。
世界的規模での市場の拡大により、水処理ビジネスは今後どんどん発展し、成長を遂げていくことでしょう。
それは、あらゆる経験を活かし、さまざまな分野で活躍できるということでもあるのです。
また、国内だけではなく、海外への進出を視野に入れている日本の企業も多く、市場の拡大にともなってベンチャー企業なども今後増えていくと考えられます。
ITの知識を活かすことでシステムの運営に携わったり、異なる業種で得た経験を水処理ビジネスに取り入れ新しい観点から発信したりしていくなど、可能性は広がります。
ビジネスの分野だけではなく、地球環境を保護するという面において貢献できるのも水処理ビジネスの魅力でしょう。
水処理ビジネスの仕事内容
一口に水処理と言っても、水に関連する仕事は非常に多く、さまざまなものがあります。
冒頭でも触れたように、一般的には、上下水道の設備・水源開発・海水の淡水化・工業用水の供給や設備・インフラ設備などがあります。
さらには、設備の設計・建設や管理・運営などの業務も行われており、業種ごとに仕事の内容も異なるのです。
以下で主な仕事3つをご紹介しますので、具体的にどのようなことをしているのか、気になる業種がある方は参考にしてください。
上下水道の運営
普段使用している水道に幅広く関わる業務が、この上下水道の運営にあたります。
新しく家を建てたときに水道管がきちんと設置されているかの検査をしたり、水道管の設計や修理、水漏れが起きていないかの調査や検針作業なども行ったりしています。
また、水を安全に飲めるようにするための浄水場の運営・管理から、水道契約の際に発生する料金の徴収などもこの運営業務に含まれているため、事務系から技術系の仕事まで多種多様です。
水質や水道事業に必要な知識についてくわしいほど重宝されますし、技術系を目指している場合は、水道業界に関するアルバイト経験なども武器となるでしょう。
水道業界の最新技術などについても知識として蓄えておくと、将来役に立つかもしれません。
水処理機器・環境装置の製造
水処理機器とは、汚水や排水をきれいにするための処理をするなど、有害物質を取り除いて水質の改善をするために製造された設備のことです。
薬品を使用して化学的に有害物質を処理する方法や、重力を利用して分離させる方法があったりと、工程はさまざまです。
主に工場や浄水場などで使用されていて、これらの水処理に関わる製品や、設備に使用する部材を製造する仕事があります。
環境に悪影響をおよぼさないようにする製品を製造したり、処理する際に使用する薬品を作ったりする業務もあるため、環境問題への取り組みに貢献していることがより実感できるでしょう。
また、処理するのは汚水や下水だけではありません。
海水を淡水へと変える設備製造も行っています。
これらは今、世界的に注目が集まっている分野でもあり、ベンチャー企業の参入も活発になってきています。
今後さらに技術などが発達し、処理機器や環境装置の分野が活性化していけば、よりいっそう水資源を再利用する幅も広がっていくでしょう。
排水処理施設の運営
水を大量に使用する病院や水族館、大きなビルなどでは、独自の排水処理施設を持っています。
異常がないか調べるための水質調査・検査などを行い、排水処理の管理をすることが主な仕事内容です。
たとえば、水族館で排水処理を行わないでいると、まず生き物はそこで暮らせません。
また、水がにごっていては水槽の中を見ることもできません。
そのため、水族館では「生き物が快適に暮らせる環境を整えながら、透き通っている水を作る」という作業が必要になります。
病院や大きなビルでも同様に、排水処理施設で他者に影響のある排水を適切に処理することが強く求められています。
水処理に関わっている日本の企業は、この排水処理の分野に携わっていることが多いです。
水処理ビジネスの国内ベンチャー企業
水資源の需要が年々高まっているのにともない、水処理ビジネスの市場規模も広がりを見せている中、これまで水道業界においてインパクトのある変革はもたらされていません。
これは、水処理ビジネスの可能性が今後まだまだ広がっていくともいえるでしょう。
国内のベンチャー企業も、さまざまな成長を遂げています。
今回は、株式会社WOTAをはじめとした6社をピックアップしました。
それぞれの企業の特性や、どのようなことを行っているのか・どのようなことに特化しているのか、ということを含めて以下でご紹介します。
株式会社WOTA
2014年に設立された東大発のベンチャー企業であり、持ち運び可能な小型の水処理プラントである「WOTA BOX」を開発しました。
「どんな場所や状況であっても水の処理と供給ができるように」と開発されたもので、最先端のAI技術により、高い効率でろ過することができます。
一度使用した水の98%以上を再利用でき、使える水が少ない状況であっても、排水量を極小化させることでシャワー入浴や洗濯などを可能にしています。
熊本地震や西日本豪雨の災害時においても、「WOTA BOX +屋外シャワーキット」という水を再利用して使うことのできるシャワーキットを提供し、活躍しました。
安全に水を使用できる環境だけでなく、水道インフラの管理に不安を抱えている地域などの希望となるような技術も持っている企業といえるでしょう。
Fracta Leap
「2050年には人口の約半数が水不足にさらされる」という世界規模の課題は、従来の技術や経験だけでは解決できないといわれています。
そこで、最新のAIの技術を利用し、この水処理インフラの課題解決に挑戦するベンチャー企業が「Fracta Leap」です。
取り組む課題が大きいため、従来の水処理インフラの生産性を10%〜20%程度高めた程度では、最適な改善とはいえません。
Fracta Leapは、国内最大手の栗田工業と協力して業務を行っており、水処理インフラの生産性の倍増をどのように実現できるか日々研究しています。
既存の枠組みを超えるための開発などにも挑戦し、プラント運転時のコストを節減するなど、生産性を向上させることにも励んでいる企業です。
株式会社AZMEC
地下水や工場排水の処理、汚染されている土壌の処理といった環境浄化を専門にしたベンチャー企業です。
それにともなう技術や製品なども提供しています。
「カテナチオaquaB」という機械を用いて、処理が難しいホウ素・水銀・セレンなどを安価に水処理することを可能としました。
現在では、中国や台湾の日系企業工場にも製品の供給を行い、納入実績も増加傾向にあります。
水処理以外にも、福島第一原発の放射能汚染土を減容化させる技術の開発に参加しており、汚染土壌の処理技術実用化に向けて研究を重ねています。
高圧洗浄技術を応用した処理技術でも評価を受けていて、高濃度汚染の処理に対する評価が高い企業といえるでしょう。
これからさらに新しい技術が開発されるであろうと注目されている企業です。
株式会社フレンドマイクローブ
近年の科学技術の発展により、さまざまなことが実現できる世の中になってきた一方で、良いとされる技術が逆に環境に負担をかけてしまうデメリットも存在します。
限りある資源を再利用しようにも、そのために環境へ負担をかけてしまっては意味がありません。
そんな負担を軽減するべく、微生物による研究を行う名古屋大学の堀 克敏教授の成果を事業として実現するためのベンチャー企業が、株式会社フレンドマイクローブです。
ウイルスを除去する「キルウイルスX MAX」という、紫外線が人体に直接照射されない安全な空気清浄機を開発しています。
また、水処理分野にも参入しており、微生物を活用した新理論による油脂含有排水処理法を開発し、安全な水処理を可能にしました。
環境創研株式会社
滋賀県でトップクラスの水質分析室を軸として、排水処理施設の設計・工事・メンテナンスや水質分析を行うベンチャー企業です。
地球にとっても、地球に存在しているすべての生き物にとって大切な水を守ることが信念とされ、生物処理方式排水処理施設や電解処理方式排水処理施設など、さまざまな水処理施設の施工や改修なども行っています。
琵琶湖がある滋賀県は、水質問題に対する住民の意識が高く、工場排水への意識も非常に高いため、そこに目をつけて会社を軌道にのせることに成功しました。
2009年に設立し、現在社員は25名ほどの企業です。
最近では技術者のレベルも上がっているようで、ここからさらに質の高い技術を磨きながら発展していける企業といえるでしょう。
ドリコ株式会社
水処理を専門に行うベンチャー企業であり、有機系産業排水処理浄水・用水処理・中水処理・化学系排水処理とさまざまな水処理の分野で活躍を見せています。
排水処理施設がないので新設したい、工業用水などをきれいにして飲用水にしたいなど、水処理に関するさまざまな悩みが解決できる技術を持っているのがこの企業の強みでしょう。
羽田空港や東京ミッドタウンの中水処理設備・川崎水族館での水処理など、幅広い場所で活躍している企業です。
将来、深刻な水不足に陥る可能性があるということは、水を再利用することへの世界的関心も高いということです。
ドリコ株式会社は、排水の再利用も視野に入れた技術を持っているため、環境への配慮も含めてこれからさらに伸びていきそうな企業でもあるでしょう。
まとめ
ここまで、水処理ビジネスについてご紹介しました。
世界的にも、リサイクルをはじめとした環境問題というのは非常に深刻で、それらに配慮しながら資源を守るために日々開発を進めている企業の努力というのは、非常に素晴らしいものです。
今後さらなる発展を見せていくであろう水処理ビジネスは、たくさんの業種があるというのも魅力の1つです。
環境問題に貢献しながら、自分のこれまでの経験を少しでも活かせるよう、水処理ビジネスに注目するのも良いかもしれません。