はじめに
あなたは、Retail Tech(リテールテック)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
まったく聞いたことがない、聞いたことはあってもくわしく知らない人もいるかもしれません。
近年ではFintech(フィンテック)のように、以前からあった領域にIT技術が導入されることも増えてきています。
この記事では、Retail Techのメリット・デメリットと現在の主な事業やベンチャー事業の代表例について紹介します。
ぜひあなたの就職活動や、自らのビジネスのヒントに役立ててください。
Retail Techとは
Retail Techとは、Retail(小売り)とTechnology(技術)を組み合わせてできた造語で、言葉の表記通り小売業にIT技術の導入を指します。
しかし小売業にITが導入されたのは最近のことではありません。
それなのに、なぜ今更このような言葉が作られたのでしょうか。
それはIT技術が発達して、導入するハードルが下がったことで、ビジネスのチャンスが広がったからです。
特にIoT(モノのインターネット)が発達したことで、今まで手に入れられなかったような情報を取得できるようになりました。
また、AI(人工知能)や機械学習によって、集めた情報を利活用できるサービスも少なくありません。
このように従来の小売業が抱えていた課題を、IT技術で解決するのがRetail Techの基本的な方針です。
Retail Techのメリット
次に、Retail Techが提供する3つのメリットについて解説します。
代表的なものは、オンラインショッピングやキャッシュレス決済による消費者の利便性の向上です。
しかしRetail Techは、私たちのような買い手だけでなく、売り手側にもメリットをもたらします。
なぜならIT技術を導入できるようなデータは、小売業のあらゆる場面に存在するからです。
特に消費者の購買行動を予測するマーケティングや、在庫管理の効率化への貢献が大きいと言えるでしょう。
消費者の利便性の向上
Retail Techがもたらすメリットとして最初にあげられるのは、消費者の利便性の向上です。
特にオンラインショッピングが一般的になったことで、私たちの生活は大きく変わりました。
なぜなら、場所・時間などに縛られることなく、いつでも好きなものが買えるようになったからです。
また近くに店舗がなくても、都会と同じものを購入できるので、地域的な格差をなくすことにもつながっているでしょう。
オンラインだけでなく、現実の買い物をするうえでもRetail Techは消費者の生活を便利にしています。
クレジットカードやタッチ決済、二次元バーコード決済の広まりにより、現金を持ち歩くことなく買い物ができるようになりました。
これらの各種決済は利便性の向上だけでなく、衛生的な安全性の観点からも非常に重要です。
効率的なマーケティングが可能
Retail Techは消費者だけでなく、商品を売る事業者にもメリットをもたらします。
代表的なのは、消費者の購買行動などのデータを活用して明確にニーズをつかむことで、効率的なマーケティングができることです。
マーケティングの変化は、前述のオンラインショッピングの普及とも密接に関連しています。
私たちがECサイトで商品を検索して購入するといった行動は、いわばデータの塊です。
どんなものを買ったか、あるいは買わなかったかといった大量の情報を分析すれば、ニーズの把握につながるでしょう。
人気があると予想できる商品を、あらかじめ「おすすめ」として表示するとことも可能です。
また実店舗においては、不人気商品を予測できれば、無駄な仕入れなどを避けられるでしょう。
在庫管理の効率化
実際に商品を扱う小売店や物流においては、在庫管理の効率化もRetail Techのもたらす大きなメリットです。
今まで手作業で管理していたものをデータやバーコードを用いて一括管理できれば、大きな効率化につながるでしょう。
人件費の削減だけでなく、迅速な入出荷によって購買者の満足度が向上することも見込めます。
また、大規模な倉庫などでの在庫管理においては、ロボットによるピッキング技術を利用した効率化も目指せます。
これらのロボットや、在庫を管理するシステムはWMS(倉庫管理システム)とも呼ばれ、特に注目されている分野です。
最近では物流に携わる企業だけでなく、大手IT企業なども参入した開発が行われ、今後さらなる発展が期待されるでしょう。
Retail Techのデメリット
以上のようにメリットの多いRetail Techですが、デメリットも存在します。
ここではその中でも代表的な2つを紹介します。
まず、導入には大きなコストがかかることもあるため、これを回収するための計画を立てる必要があるでしょう。
また、従来業務のロボット化が進むと雇用が縮小し、退職を余儀なくされる、就職できない人が出てくるかもしれません。
これらのマイナス面もふまえて、それでも導入によるメリットが上回るのかどうかを考慮する必要があるでしょう。
導入コストがかかる
新しい技術を取り入れるうえで、導入コストはデメリットとして確実に生じるでしょう。
特に小売りや物流の分野は規模が大きいので、初期費用が莫大になることも考えられます。
また、導入するに際しての作業や、社内での調整業務など目に見えないコストも無視できません。
必要に応じて導入システムの説明を行ったり、技術に精通したりしている人間を登用する必要があるでしょう。
また、システムは初期費用がかかるだけでなく、保守・運用のためのランニングコストも発生します。
また、なんらかのトラブルや障害が発生しても、消費者への影響は最小限となるよう対応しなくてはいけません。
システム導入時はランニングコストや、緊急発生するコストもふまえても利益を見込めるか慎重に判断しましょう。
雇用の縮小
Retail Techによって従来業務の置き換えが進めば、雇用が縮小する可能性を含んでいることも無視できません。
自動化やロボット化が進むと、業務を奪われてしまった人材が社内で余り、職を失う人も出てくるでしょう。
特に単純なデータ入力や倉庫での出荷作業等は、機械に取って代わられる確率の高い業務です。
またこれらの作業の雇用が縮小されれば、これから就職活動を行う学生の中にも、職に就けない人が出てくることも予想されます。
Retail Techが普及した社会で働くためには、人間にしかできない創造的な仕事をこなせなくてはいけません。
このためにも、現在職に就いているかどうかにかかわらず、創造力や論理的思考力、コミュニケーション能力を養っておきましょう。
Retail Techが取り組んでいるテーマ
次に、Retail Techが取り組んでいる4つの重点的なテーマと、そのポイントについて解説します。
Retail Techは取り組む領域が多岐にわたっているため複雑ですが、リアル・デジタル・商流・物流の4テーマに分類して考えると良いでしょう。
最初の2つは消費者側ですが、あとの2つは事業寄りで、普段は目につきにくい領域といえるかも知れません。
Retail Techを理解するうえでは、小売業のビジネスモデルを理解することは重要でしょう。
リアル
Retail Techが取り組んでいるテーマとしてもっともわかりやすいのは、実店舗における効率化です。
特にキャッシュレス化や、無人店舗の拡大によって、レジでの支払い作業は大幅に効率化されています。
これは購入者だけでなく事業者にとっても、レジでの会計ミスを防げることや決算処理が楽などの利点が考えられます。
もちろんレジ打ち人員が必要なくなることで、小売業の中でも大きな比率を占める人件費の削減にもつながるでしょう。
Retail Techのベンチャー企業は、決済をより効率化するためにさまざまな事業を行っています。
買い物かごや手に取った商品を識別し、レジに並ぶことなく支払いが完了するようなシステムも今後一般化するでしょう。
デジタル
Retail Techはデジタル領域におけるEコマース、オンラインショッピングなどのテーマも盛んです。
特に、感染症対策による外出自粛などもあり、オンラインショッピングの重要性が高まっています。
以前はAmazonや楽天のような大手だけでしたが、今では小さな会社でも気軽にオンラインショップを持てるようになりました。
たとえば、Eコマースプラットフォームである「BASE」はその典型例とも言えるでしょう。
これらのプラットフォームは、今までオンラインショッピングをやったことのないオーナー向けのノウハウを同時に提供しています。
また、「ラクマ」や「メルカリ」など、消費者同士を直接つなぐフリマアプリも注目されています。
これらは「C2Cプラットフォーム」と呼ばれ、事業者を通さない、新しい流通の形を確立しました。
商流
Retail Techは商流の領域においても事業を展開している企業が多くあります。
商流は小売業を形作る重要な流通網の1つです。
つまり、商品が生産者から消費者に届くまでの一連の中で、所有権に注目した流れのことです。
商流におけるRetail Techの取り組みの代表例は、POSシステムによる在庫管理があげられます。
POS(Point of Sales)とは販売時点情報、つまりそれぞれの商品がある時点でどれくらい売れたかを示す情報です。
以前は人の手によって管理していましたが、商品が売れたら即座に在庫管理データに反映するPOSシステムが導入されるようになりました。
これによって人為的なミスが防げるようになったと同時に、販売データから次回の入荷数などを計算できるなど、メリットも多くあります。
物流
Retail Techは物流の領域においても、ベンチャー企業などによって事業が展開されています。
商流と混同されがちですが、物流は生産者から消費者に届けられる商品の運ばれ方に注目した流れを指します。
物流におけるRetail Techの代表例は、WMS(倉庫管理システム)と呼ばれる在庫管理のロボット化です。
最新の設備においては、AIがカメラ等で商品を認識、入荷からピッキング、出荷まで一連の流れを担います。
倉庫管理を自動化することで、生産性の向上につながり、労働環境の改善も見込めるでしょう。
しかし、これらは従来の倉庫管理を行っていた企業だけでは困難なことも多く、物流とIT技術の両方の知見をもつRetail Tech企業が求められています。
Retail Techのベンチャー事業例
最後に、Retail Techのベンチャー企業が展開する代表的な事業例を紹介します。
Retail Tech事業を行うには、小売業とIT技術の両方に関する知識が必要です。
このため、すでに安定した既存事業を持っている従来の大企業では参入しにくい側面があります。
しかしその分、これから事業を立ち上げるベンチャー企業は参入しやすいと言えるでしょう。
ここでは、先述したような領域で実績をあげて注目されている、3つのベンチャー企業を紹介します。
Standard Cognition
まず紹介するのは、無人決済システムを開発するシリコンバレー発のベンチャー企業、Standard Cognitionです。
無人決済システムは、日本をはじめとした多くの国々の課題である、労働力不足と顧客体験向上の両方を同時にもたらします。
Standard Cognitionが開発したのは、店舗のカメラ映像とAI技術により、消費者がレジを通ることなく買い物ができるシステムです。
商品の決済は退店した際にアプリが自動的に行ってくれるため、支払いなどで手間取る心配がありません。
無人店舗といえばAmazon社が開発した「Amazon GO」が有名でしょう。
しかしStandard Cognitionのシステムは、よりカメラが少ないうえに、個人情報を保護したまま買い物ができるシステムとして注目されています。
Caper
2社目のRetail Tech注目企業は、AIスマートショッピングカートの開発・販売を行うニューヨーク発のベンチャー企業、Caperです。
他企業は小規模の小売店を想定しているのに対し、Caperのスマートカートは既存のスーパー等を対象にしているのが特徴です。
カートにはカメラとディスプレイが搭載され、商品のバーコードをかざすと合計金額が表示される仕組みとなっています。
かごに商品を入れるだけで決済が完了するため、レジ待ちの列を解消できることが大きなメリットです。
また、かごに入れられた商品の組み合わせからレシピを推測、おすすめの食材の場所を表示する機能も搭載しています。
快適に買い物を済ませたい消費者、スーパーをリノベーション等行わずに無人化したい事業者側の課題を同時に解決できます。
Simbe Robotics
最後に紹介するのは、品切れを自動検知するロボットを開発・販売するサンフランシスコのベンチャー企業、Simbe Roboticsです。
Simbe Roboticsの開発するロボット「Tally」は1mほどの背丈の自走式ロボットで、商品棚の商品管理の補助を行います。
ロボットには40個ものセンサーが搭載されており、1時間に15,000~30,000個もの商品がチェック可能です。
また在庫数だけでなく、配置の乱れや値札の間違いなどの情報も収集し、通知できます。
衝突回避のシステムも搭載しており、確認後は自動で充電スポットに戻るため、手間がかかりません。
この「Tally」の活躍によって、在庫切れや不適切な価格の設定による損失を防ぐことが期待されています。
おわりに
この記事では、IT技術によって小売業の課題を解決するRetail Techのメリット・デメリット、取り組む分野や注目のベンチャー企業を紹介しました。
Retail Techは小売業界の人手不足を解消するうえで重要であり、これからも発展してゆく分野と言えます。
自社でのRetail Tech導入を考えている場合、メリットとデメリットをしっかり把握することが必要です。
また、これからの時代を生きるにあたり、ロボットに取って代わられないような仕事に就くため、創造力を鍛えておきましょう。